Beast Love
「ノゾミ、」


低い声で呼ばれた自分の名が、矢のように浮き立つ心に突き刺さる。



髪を振って顔を向けば、己の美貌を理解しすぎている男が、そこにいた。


「よお。帰ってきたぜ」


待ち望んでいた瞬間に、息が詰まる。


だって、ブラックのキャリーケースを転がしてこっちに近づいてくる彼は、……車椅子姿じゃなくって。


「……マサトっ、足! 歩いてる……っ?!」


「まぁ、リハビリ頑張ったからな」



ちぎれんばかり尾を振って、飛びかかる犬さながらの抱擁をかますと、慌てて受け止めてくれた。


「うおっ」

「なんで言ってくれないのよー!」

「会った時に驚かせてやろうと思ってよ」



どこまでも意地悪で、カッコよくて。



「よかった……っ」


ここまで歩けるようになるまでには、きっと死に物狂いで辛いリハビリを乗り越えてきたのだろう。


……でも、努力を見せびらかさないそんなあなたの生き様が、大好きで。


自分だけがこんなにも好きなんかじゃないかなって、不安になるくらいに。
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