Beast Love
夜勤明けのぼんやりと夢見心地な、けれども脳の奥は冴え切っている疲弊した身体で出入り口のドアを開ける。
零細や家族経営のこぢんまりとした会社が集まるちょっとしたオフィス街が、朝日を受けて朱鷺色に輝いていた。
「あ、来たきた! 鳳凰さん、出て来たよ!」
高揚した声を合図に、4〜5人の女性がまるで報道陣のようにワッとマサトを取り囲んだ。
「夜勤、お疲れ様ですっ」
「これ良かったら、食べて下さいっ。手作りのクッキーです!」
学生時代の頃から、異性の注目を浴びることには慣れている。
自分に興味を抱いて欲しくて、詰め寄る女性たちにどんな顔で対応すればより虜になってくれるのかも。
何と言ってやれば、嬉々として喜ぶのかも。
「悪い、これ全部受け取れねーよ」
だが、彼はもうそんなことに必要性を感じていない。
「俺、結婚してるからさ、」
繋ぎ止めておきたいたったひとりの女性に、出会えたから。
「だから、悪いけど受け取れねーんだわ」