Beast Love
「なんだよ、無自覚でそんな陰気臭ぇツラして歩いてたのか?」


「あ、あははーっ。そうかも知れない」


鋭い目つきに威圧的なオーラを纏うこの人に声を掛けられて、怖い。

怖い筈、なのに。


呼び止めてくれて嬉しいだなんて、場違いなことを考えている自分がいて。


「もう出口から出ちまったし、仕方ねぇから家まで送ってやるよ」


「え! 良いの? 〔天空の万華鏡〕の野外ショー見ないの?」


思いがけないお誘いに驚きを隠せないでいると、心外だとでも言いたげに溜め息を吐かれてしまった。


「は? テメェが何するかは、テメェが決める。俺の行動を勝手にお前が決めんな」



如何にも彼らしい回答に、吹き出してしまった。


「ふっ、ははっ。ごめんなさい。じゃぁ、そうして欲しいかな」

何も考えず素直にそう返すと、今度はマサトが動きを止めた。

「……あれ? どうしたの?」

出口のすぐ側で立ち止まるふたりの脇を、中から出てくる家族連れが避けていく。


「おちょくられてんのに笑ったり、憎たらしい宣言してる奴に向かって礼を言ったり、素直に家まで送ってくれとか言ったり、ホントお前って……」


夕陽がズブズブと地平線の彼方に沈む、世界の片隅で。


逆光となり暗い闇に落ちゆく彼が、……微笑んだ気がした。


「面白い奴、だな」
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