Liebe
「でも偶然、僕は彼の本を持っているんだ」
「え……偶然、ですか」
「偶然、です」
ダニエルが楽しそうに笑う。
「でも、友人としては本人が嫌がっているのに本を渡すわけにはいかないなぁ」
「そ、そうですよね……」
またしても落ち込むエリーの姿に、ダニエルは引きとめるように言葉を続けた。
「実はこの後、買い物に出かける用事があるんだよね」
「そうなんですか?」
突然話が変わったことに目を白黒させながらエリーは聞く。
ダニエルは相変わらずの笑顔だ。
「うん。エリーちゃん、よかったらお留守番してもらえる?」
「えっと、私で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。この時間はほとんど人は来ないし、本の貸し借りはわかるよね? カードの内容をここに記すだけ」
「は、はい。頑張ります」
エリーの言葉にダニエルはふっと笑い、ゆっくりと言葉を続けた。
「じゃあよろしくね。買い物に行って、泉の傍にある大きな石の横にウィルの本を偶然落としてしまってから、すぐに帰ってくるよ」
そう言ってダニエルは手を振って去って行った。
図書館に残されたエリーとリヒトはぽかんとしてその後ろ姿を見送る。今、泉に本を偶然落とすと言っていた。
「落ちている本なら……中身を確認する必要があるよね。リヒト」
エリーの言葉にリヒトはうんうんと力強く頷く。
ダニエルの粋な計らいだ。
お言葉に甘えようとエリーは決めて、留守番に徹することにした。