Liebe
エリーは静かに海辺に近付いていく。
そして足が濡れない程度の所で腰を下ろす。
遠くを見つめるように、海の方へ視線を向けている。
わずかに顔を歪ませ、エリーは深くため息をついた。
「……少しくらい、思い出せると思ったんだけど」
エリーは記憶が一向に戻らないことを気にしていた。
毎日は楽しく充実しているが、いつまでもウィリアムの世話になるわけにはいかない。
彼には彼の生活があり、彼には彼の仲間がいる。
少しでも記憶が戻れば、自分の家に帰ることができれば。
自分自身を取り戻すことが出来れば。
その時はまた改めて自分自身としてウィリアムに会いに行きたい。
それに、何より。
「私は、エリーじゃない」
とにかく不安だった。
自分が何者なのかもわからず、何故海辺に倒れていたのかもわからず、どうしてこの街に来たのかもわからない。
街の人はとてもよくしてくれるし、ウィリアムやアンナ達もすごく優しい。
しかしエリーはたまに、もやもやとした不安に押しつぶされそうになる時がある。
少しだけでも記憶が戻ってくれたら、どんなにいいか。
エリーは再び深くため息をついた。