Liebe
「本当は、ちょっと期待してたんです」
話しはじめると、ウィリアムは無言でエリーを一瞥した。
「私の倒れていたという海へ来れば、少しでも記憶が戻るんじゃないかって」
「……そうか」
「でも、ダメでした」
そう言ってエリーはふふっと笑った。
どこか儚げな笑みだ。そしてまた沈黙が続く。
「……この海は、綺麗だ」
次に口を開いたのは、ウィリアムだ。
エリーは意外そうにウィリアムの顔を見つめる。
「筆が進まない時はいつもここに来る」
「そうなんですか」
「ああ。お前を見つけた時も、そんな時だった」
そして喉が詰まったように、ごほんと咳払いをする。
「……妖精に会えたのかと、思った」
「え?」
「いや、ちょうど、妖精の、妖精の話を書いていたんだ。その時」
驚いたような顔をするエリーと一瞬目が合う。
しかしウィリアムがすぐにまた海へ視線を移した。
「……すまない。今のは忘れてくれ」
その言葉にエリーはふふっと笑った。
先程とは違い、嬉しそうな笑みだ。頬もかすかに桃色に染まっている。