Liebe
改めて万年筆を大切そうに箱にしまったウィリアムは、上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「……受け取ってくれ」
「え?」
戸惑うエリーに、ウィリアムは箱を開けて中のものを取り出す。
そしてエリーに一歩近づいた。
手にあるのは、指輪だ。
繊細そうな鎖でネックレスのようにしている。
「感謝しているのは俺の方だ」
戸惑うエリーに、ウィリアムは悲しげに微笑む。
「……俺はお前の思っているような、立派な人間じゃない」
「ウィリアムさん……?」
ウィリアムはネックレスをエリーに付けるため、後ろに回った。
「……お前の眠った記憶の中の思い出を、上書きできたらいいって、いつも考えるんだ。そうすれば、お前がいなくなることも……」
ない、とウィリアムは小さな声で続ける。
首元につけられた指輪には、エリーの瞳と同じ蜂蜜色の宝石がついていた。
考えることは同じだと思い、エリーは頬を緩ませる。
その指輪を見ていると、なんだか涙が出てきそうだった。
嬉しいはずなのに、何故か少しだけ。
受け取りたくないと思ってしまった。
「……そろそろ、帰るか」
「そうですね」
二人は海辺から家の方へと歩き出す。砂浜には、二人の足跡が続いていた。