Liebe
第三十九話「時と筆」
明日はいよいよ祭りの日。
楽しみにしながら、エリーは目を覚まし、身支度を済ませ、朝食を用意する。毎朝の流れだ。
そしていつものようにウィリアムの部屋に声を掛けに行く。
しかし、部屋にウィリアムの姿はなかった。
不思議に思いながら家の中を探すが、ウィリアムはどこにもいない。
彼が朝からどこかへ行くことは滅多にない。
エリーは心配に思い、迷いがないような様子で家を出ていった。
向かった先は海。
ウィリアムがどこかへ行ってしまっているとしたら、間違いなく海だとエリーは確信していた。
そしてその考えは当たっていた。
ウィリアムは海辺に座り、海を眺めていた。
「……ウィリアムさん」
後ろから声を掛ける。
ウィリアムは振り向かずに「ああ」と返事をした。
「どうかなさったんですか?」
「……筆が、進まなくてな」
「そう、ですか」
二人で海辺に座り、黙って海を眺める。
潮の香りが届いてくる。
柔らかい風が時折二人を包んでいた。