Liebe
「あの、ウィリアムさん」
「なんだ」
「明日、お祭りですね」
「そうだな」
返事の様子だと、特にいつもと変わったところはないようだ。エリーは話を続けた。
「私、とっても楽しみにしているんです。自分の住んでいる街がどんなふうに変わるのか、皆さんがどんな表情で楽しんでくれるのか。妖精も来てくださるんですよね。リザさんとテオさんもお店を出すそうですよ。時計屋のおじさんやお菓子屋さんも屋台をされるようです。明日はお腹を空かせて臨まないといけませんね」
楽しそうに話していたエリーは、ふと不安そうな顔をする。
筆が進まないとは言っていたが、ウィリアムが突然朝から海へ行くということは。
頭の中に浮かんだ考えを、そのまま口にする。
「あ、もしかしてウィリアムさん締切とか迫っていますか? 明日はお祭りに参加できないとか……」
「いや、行くつもりだ」
「本当ですか? よかった」
心の底から嬉しそうに笑うエリー。
そんなエリーを、ウィリアムはじっと眺めた。
そのことに気が付き、エリーは困ったように眉を下げる。
「え、あ、ど、どうされました? 私、喋り過ぎてしまいましたか……?」
そんなエリーの言葉に、ウィリアムは首を横に振る。
そして、柔らかい表情でふっと息を吐いた。
「……お前を見ていたら、なんだって書けそうな気がしてくるな」
「え?」
「そろそろ帰るか。朝食、作ってくれたんだろう」
「は、はい……」
「今日は一緒に食べるか」
「はいっ!」
嬉しそうに笑みを浮かべるエリー。
ウィリアムもまた、穏やかな顔つきで共に歩き出した。