Liebe
頭の中に、風が吹く。
ティーナの言葉を聞きながら想像していた情景。
それらは全て、現実だった。
どうして忘れていたのだろう。
母の優しい瞳、父の頼りになる背中、そして。
首元の指輪を取り出す。
ウィリアムにもらった指輪の隣に、婚約者のロイにもらった指輪が並んでいる。
照れたような頬に、困ったような目。
少し癖のある声に、落ち着く柔らかい香り。
優しく頭を撫でる大きな手が、レイラは好きだった。
「エリー」
その低い声に、ワンピースに染みが出来ていることに気が付いた。
ぽたぽたと丸く濡らすその染みは、自分の目から出ている涙だ。
顔を上げて、ティーナを見る。
ティーナは同じように目を濡らしていた。
「……ティーナ」
ティーナの目が大きく開かれる。気付いたのだろう。
「ごめんね。私、忘れて、しまって」
困ったように眉を下げると、ティーナは大きな声で泣き出した。
「レイラ様……っ」
テーブルを避けて、ティーナはレイラに抱き着く。
強く抱きしめ返しながら、もう一度謝った。
ウィリアムがゆっくりと外に出ていくのが見える。
ティーナを抱きしめながら、懐かしい香りに目を細めた。