Liebe
「どうしたの?」
女性が不思議そうにその様子を見つめる。
「髪が、ちょっと、ごわごわします」
まるで覚えたての言葉を発するかのように、ぎこちなく声を出した。
その様子が面白かったのか、それとも発した言葉が意外だったのか。女性は豪快に笑った。
「そりゃあそうよ。あなた海辺に倒れていたんだもの。とりあえず着替えはさせたけど、きちんとお風呂に入った方がいいわね」
視線を合わせるようにして女性は身をかがめる。
そして群青色の瞳が優しく微笑んだ。
「私はアンナ。もしよかったら、あなたの名前を教えてくれる?」
そんなアンナの微笑にほっと安心感を抱き、口を開く。
しかしその瞬間、心臓の高鳴りと共に一瞬呼吸が止まったような感覚がした。
――わからない。
身体が震えるような感覚がして、思わず手を抑える。
そんな様子を見て、アンナは落ち着かせるようにその手に両手を添えた。
「……まだ混乱しているのかも知れないわ。とりあえずお風呂に入って。話は後にしましょう」
アンナはそう言って明るい笑顔を見せた。
ゆっくりと息を吐いて、少女はこくりと頷いた。