Liebe
第十一話「緋色の鬼」
コツン、と音が鳴った。
エリーは目を開けて、起き上がった。
隣のベッドを見てみるが、アンナはぐっすり眠っている。
今は何時だろう。
枕元にはリヒトが気持ちよさそうに眠っている姿。
もう一度コツン、と音がした。窓からだ。
エリーは立ち上がって、音を立てないようにゆっくりと窓を開けた。
「よっ」
聞こえた声に窓の外を見下ろす。
そこには笑顔のシェルがいた。
エリーは不思議そうに目を瞬かせてシェルに声を掛ける。
アンナを起こしてしまう可能性があるため、小声気味だ。
「どうしたんですか?」
「あぁ? 聞こえねぇよ」
シェルが声を張り上げる。
その声の大きさに焦り、エリーはしーっと口元に指を運んだ。
「ったく、しょうがねぇなぁ」
シェルは呟き、周りを見渡す。
そして、宿の入り口の小屋根に飛び乗った。
驚くエリーを気にせず、シェルはまるで猫のように容易く登ってくる。
「よっ」
二度目の挨拶は、エリーのすぐ傍で聞こえた。
エリーの部屋の窓にしゃがむように身を低くしている。