弟はドラゴンで
午後10時。
「唯ー!来たぞー!!」
バタン!と突然部屋のドアが開き、私は心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。
「……っ龍!ノックくらいしてよ!」
「え、10時に部屋行くって言ったからいいかな?って☆」
「だったらもっと普通にドア開けて!ビックリするから!」
「ごめんごめんっ」
「あはっ」と笑って流す龍。
「…………で、なんか用なの?」
「ん?何って……」
ガシッと私をお姫様抱っこしてきた龍。
「ちょ、え!?」
「行くぞ!」
龍は私の部屋の窓を開けて、窓枠を踏み台にすると、私を抱えながら勢いよく外に身を投げ出した。
「えええ!!?」
龍が大きな翼を広げ、一瞬で私たちは屋根より高い場所に舞い上がった。
どんどん家が小さくなっていく。
「ちょ、なに!?なんなの!?」
「今日は、満月だよ」
「……え」
見上げると、まんまるく光った月が、私たちを照らしている。
……あ、今日、満月だったんだ。
龍は、満月の日にいつも私に、こうやって月を見せてくれる。
夜の街を見渡せるくらい、高く飛んで。
2人で満月を見るのは、小さい頃からのお約束みたいなもの。
「ほんとだ、きれー!」
「唯、完全に忘れてただろ〜」
「すっかり頭から飛んでた」
「ごめん」と、私は笑う。
「ほら、下見てみろよ」
「うん、綺麗だね」
街が、灯りでキラキラ輝いている。
何度も見る景色だけど、何度も感動する。
何度も「綺麗」って思う。
月も、街も、いつ見ても飽きない。
こんな風に月や街を見られるのは、龍のおかげ。
特別な場所を、龍は作ってくれる。
龍が見る景色を、私にも分けてくれる。
龍とのこうした夜の特殊なお散歩は、私の特別な時間。
龍は、いつも唐突で、びっくりさせられることも多いけど……そんなのいつものことで、私にとってはそれが日常。
なんだかんだ言って、私は弟の龍が大好き。
元気な龍が大好きで、家族を大事にしてくれる龍が大好き。
嫌いなところなんてない。
……なんて、本人には言わないけど。
「ありがとう、龍」
「唯が喜ぶなら、満月じゃない時でも街眺めに連れてってやるよ!」
「いやいや、あんま飛びすぎて誰かに見つかっちゃったら怖いから……」
ニッと笑って言う龍に冷静な言葉を返しながらも、私は内心、喜びを感じるのであった。