小説請負人Hisae
5「大工の棟梁リンさん」
メールが届いていた。問い合わせであった。
「初めまして私は六〇歳になる普通の主婦です。私の主人は長年建築の仕事を営んできましたが、今年で引退すると言い始めました。
私が「まだ六〇歳なんだから辞めるのは早いのでは?」と言ったところ「住宅を扱うのはもう飽きた」とのこたえでした。
私は黙って受け入れました。でも、主人が現役中に話したことを、解らないながらもずっと聞いてきました。私は建築って面白いと思いながら聞いてまいりました。 その主人の話を何らかの形にしておきたいと思っていたところに、Hisaeさんのブログを拝見しました。
私は、主人の話を形にできるのはこれだ!と思いHisaeさんにメールした次第です。
制作してほしい内容は、長年聞き覚えてきた「大工の裏話」的な話を一冊の本にまとめてほしいと思います。
口べたで人付き合いの下手な主人に、最後の仕事から帰っていつものように風呂に入り、そして晩酌という時、食卓に『長年ご苦労様でした』と本にメモを添えてプレゼントしたいのです。
私の感謝の気持ちを形にしたいと思いHisae様にメールしました。是非、お考え下さいませ。
林 奈美
大工さんか?奥さんから仕事のエピソードをもらえるなら引き受けるか……Hisaeは承諾メールを返信した。
奈美さんからメールが入った。
早速の返信ありがとうございます。主人の最後の現場があと一ヶ月程で竣工だそうです。
仕事の内容は………以上、私が主人から聞いた事をまとめてみました。わからない事がありましたら遠慮なくメール下さいませ。 林 奈美
Hisaeは構想を練った。建築関係は初めてだった。まして、送られた内容が非常にリアルだったので気を引きしめた。
あらすじ
これは大工の棟梁リンさんの物語。
リンさんは無骨だが仕事に関しては実直で堅い性格。昭和を絵に描いたような頑固一徹の大工さん。 その背景にはいつも小森の棟梁という師匠の教訓があった。
ある時は、ただ同然で請負い奥さんを困らせることも、人助けと自腹を切ってまで手がけた仕事などなど。損得よりも、自分の心に従った仕事をする。そんな大工の棟梁の物語。
彼を知る人は親しみを込めてリンさんと呼んだ。これから始まる物語はそんな大工の棟梁リンさんの半生にスポットを当てたものがたり。
ここは、札幌市内の住宅地にある一戸建ての現場。
「リンさん、すまんけど」
「なんだい! 岩さん」
「この床のレベル出してくんねえかな……?」
「あいよっ!」
リンさんは腰袋からスケールを取り出し計測をし、水平機を当てレベル出しをした。
「リンさん、ありがとうね、相変らず速くて正確だね。やっぱリンさんの仕事は気持ちいいやねぇ」
「馬鹿云うな。こんなもん誰だってできらあな。俺の若い頃は水管で叩き込まれたもんだ……」
リンさんの脳裏には遠い昔の想い出が過ぎった。
「おい、ハヤシ(リンさんの本名)」
「へい」
「ヘイじゃねえよ、ハイだろうが」
「ヘイ、すいません」
「またヘイ!おめえは何度教えても解かんねえ奴だなあ」
「すみません」
「今日は、おめえにレベルの採り方教えるから、しっかり憶えろや!いいか、1回しか教えねえ。耳の穴かっぽじって聞くんだぞ。 その前にバケツに半分ぐらい水入れもっててこい」
「はい」
リンさん、十八歳の事だった。大工さんの世界では技術の無い下っ端を「手元」と呼んだ。今でいうパシリ、つまり使いっ走りである。リンさんがまだ手元の頃話し。
「わかたったか?」
「ハイ、でも……なんで水管使うんですか?」
「地球の重力は一定なんだ。この管の水の先端の位置とバケツの水位は同じ高さになるんだ。その先端の位置に印を付けておくと自ずからこの印がガイド(基準)になる」
「何でも基準が必要なんだ。家を建てるんでも、人生だってそうだ。自分がどうなりたいか基準ってえものがないと迷うことになるぞ。
人生の方向性の基準だ。あの広い海に出たって羅針盤ってのがあるから迷わずに航海ができる。その昔は星が基準だ。
その基準があるから自分を見失わない。憶えておきな」
「へい」
小森棟梁の話は建築の事に例えて人生をも教えてくれた。リンがもっとも尊敬し信頼する棟梁だった。
「リンさん、また目が宙に飛んでるぞ」仲間の大工達は笑った。リンは考え出すと手が止まる癖があった。
「リンさん、リンさん」
「あっ、また止まってたか?」
「止まってた・・今日は五分ほど」
大工仲間は全員笑った。
リンが結婚したのは二十五歳。妻の奈美と知り合ったのは大工仲間の紹介。 初めてのデートはススキノのディスコ「釈迦曼荼羅」リンの踊りは一風変わっていた。 金槌で釘を打つ格好やカンナがけの様子が踊りの中に入っていた。
奈美さんやまわりの人を楽しませた。その後、交際を重ねて結婚。自分で工務店を独立したのは四十二歳の時。棟梁の小森が亡くなったのを期に独立した。
決して順調な滑り出しではなかった。経費を払って終わり。給与は無しという月もあった。そういう月に限って、小森棟梁の話が思い出された。
「いいかリン、家の形を見たらその家の主人の人柄がわかるんだ」
「……どういう事ですか?」
「単純明快な人が好む家は、凹凸が少なく四角形の単純形が多い。複雑な形は変くつでこだわりの多い人が好む」
「思い起こせばたしかにそうです」
「だろう」
「これは誰でもわかることだが、家の周りが整理されてない家、手を掛けてない家は、子だくさんか借家が多い」
「なるほどです」リンは納得した。
「家の廻りが整頓されていて、植木や花の手入れのしてある家は、年寄りか生活にゆとりのある人が多い」
「小森棟梁は分析力あるんですね」
「分析でもなんでもねえ単なる経験だ! おめえもそのうちわかるよ。 俺の見立てでは、全てに几帳面で家だけ乱雑ってな人間はいねえ」
「家庭も仕事も繋がってるんだ。リンも将来家を持ったら几帳面に手入れしろよ。家は人間を表わす」
「よく大工の家は汚いって云うけど、そういう奴らは本当の大工じゃねえ。ぶっつけ大工てんだ。リンはそうなるなよ憶えとけ……」
「はい!」
「どうせ、大工になるなら本物の大工になんな、いいなリン。経営や数字の為の大工になるなよ」
「まあ、どちらを選でもそれはリンの勝手だがな……」
小森の棟梁には色々な事を教わった。
「仕事に馴れるなよ! 馴れはそれ以上にはなれねえ。そこで止まってしまう。これでよしと思ったらそれまでだ……
限界を設けるな! 大工にも大きく2通りある。 今がよければよしとそるそんな工事する大工と。 十年いやその先を見越した工事をする大工がいる。表向き一応どちらも大工だ。
どちらを選ぶんでも勝手だが、俺らは客の財産をいじってるんだ……忘れるなよ。財産は長く価値が変わらねえ、だから財産なんだ。数年で変わるような物は財産とはいえねえ」
リンは技術以外のメンタルな教えにも共感していた。言葉で言い尽くせない程いろんな事を小森から教わった。 自分の会社も小森棟梁に見習い経営したいと頑張ってきた。
ただ、小森棟梁には言葉に癖があった。青森出身のため訛りが激しく聞き取れない言葉も多くあった。
「へだりにこれを打ち込め」
「……棟梁へだりってなんですか?」
「へだりはへだりだべ。右、へだりのへだりだべ。馬鹿たれが!」
「あっはい……」
「リン、釘っこさ、わんつかよこへ」
リンは頭の中で言葉を整理した「釘っこ。くぎだよな。わんつか……わずか?少し。つまり釘を少しよこせか」
棟梁の言葉を頭の中で通訳するのだった。
リンが旅行で棟梁と青森のねぶた祭りを見に行った時。青森弁を違和感なく理解できる自分が不思議だった。
Hisaeはひと息ついた。
う~ん。このままでは面白さが乏しいなぁ。 これだと、なんの変哲もないただの生真面目なリンさんの自叙伝だよな…なんか盛り上がりに欠ける……
物わかりの良い、ただの大工の棟梁。 浮気? 倒産? 建築ミス? 特許……
Hisaeは奥さんからのメールを再度読み返した。 フムフム……なるほど、とりあえず今日は寝よう。
Hisaeは翌日の昼まで寝ていた。
あ~~寝た寝た。 いつもならコーヒーを飲んでキーボードに向かうのが日課。 今日はなにを思いついたのか、コーヒーを飲まずPCの前に座った。
リンは「熱の力学」に注目した。
熱は暖かい方から冷たい方へ移動。 暖気は上で冷気は下。地下熱は南極も赤道直下でも、地球何処でも一定の十五度。
これを効率よく利用出来たら、エネルギー問題を多少緩和か? 雪はゼロ度以上で融ける、道路の路盤温度をゼロ度にするには……呼び水、呼び暖気?解った。これがあれば、農家さんの夏冬のハウス内の冷気や暖気問題が多少緩和されるはず。 製品は特許を申請し瞬く間に世に広がった。
「ハヤシ空調システム」が農家で話題になっていた。 本人が考える以上に反響を呼び、瞬く間にハヤシ空調システムは農家に広まった。 特に冬場は、ビニールハウス内でストーブを点けっぱなしの、花農家には省エネと、開花の時期を調整できるとあって好評をよんだ。
多少の小銭が貯まったリンは六十歳を迎え引退した。 残りの人生を愛車NOAHをキャンピングカーに改装し、夫婦で全国の行脚の旅に出た。
リンさん六十二歳であった。
END
Hisaeはメールした。
さっそく製本し、この世で一冊の本「大工の棟梁リンさん」を送った。
早速メールが返信された。
「ありがとうございました。最後の仕事終いに間に合います。私の思っていた通りの出来にビックリしてます。主人に喜んでもらえると思います。にが笑いする顔が思い浮かばれます。
ありがとうございます。
林 奈美
間に合ってよかった。Hisaeはほっとした。
晃平のところでも髪切りに行こうかなあ?
END
メールが届いていた。問い合わせであった。
「初めまして私は六〇歳になる普通の主婦です。私の主人は長年建築の仕事を営んできましたが、今年で引退すると言い始めました。
私が「まだ六〇歳なんだから辞めるのは早いのでは?」と言ったところ「住宅を扱うのはもう飽きた」とのこたえでした。
私は黙って受け入れました。でも、主人が現役中に話したことを、解らないながらもずっと聞いてきました。私は建築って面白いと思いながら聞いてまいりました。 その主人の話を何らかの形にしておきたいと思っていたところに、Hisaeさんのブログを拝見しました。
私は、主人の話を形にできるのはこれだ!と思いHisaeさんにメールした次第です。
制作してほしい内容は、長年聞き覚えてきた「大工の裏話」的な話を一冊の本にまとめてほしいと思います。
口べたで人付き合いの下手な主人に、最後の仕事から帰っていつものように風呂に入り、そして晩酌という時、食卓に『長年ご苦労様でした』と本にメモを添えてプレゼントしたいのです。
私の感謝の気持ちを形にしたいと思いHisae様にメールしました。是非、お考え下さいませ。
林 奈美
大工さんか?奥さんから仕事のエピソードをもらえるなら引き受けるか……Hisaeは承諾メールを返信した。
奈美さんからメールが入った。
早速の返信ありがとうございます。主人の最後の現場があと一ヶ月程で竣工だそうです。
仕事の内容は………以上、私が主人から聞いた事をまとめてみました。わからない事がありましたら遠慮なくメール下さいませ。 林 奈美
Hisaeは構想を練った。建築関係は初めてだった。まして、送られた内容が非常にリアルだったので気を引きしめた。
あらすじ
これは大工の棟梁リンさんの物語。
リンさんは無骨だが仕事に関しては実直で堅い性格。昭和を絵に描いたような頑固一徹の大工さん。 その背景にはいつも小森の棟梁という師匠の教訓があった。
ある時は、ただ同然で請負い奥さんを困らせることも、人助けと自腹を切ってまで手がけた仕事などなど。損得よりも、自分の心に従った仕事をする。そんな大工の棟梁の物語。
彼を知る人は親しみを込めてリンさんと呼んだ。これから始まる物語はそんな大工の棟梁リンさんの半生にスポットを当てたものがたり。
ここは、札幌市内の住宅地にある一戸建ての現場。
「リンさん、すまんけど」
「なんだい! 岩さん」
「この床のレベル出してくんねえかな……?」
「あいよっ!」
リンさんは腰袋からスケールを取り出し計測をし、水平機を当てレベル出しをした。
「リンさん、ありがとうね、相変らず速くて正確だね。やっぱリンさんの仕事は気持ちいいやねぇ」
「馬鹿云うな。こんなもん誰だってできらあな。俺の若い頃は水管で叩き込まれたもんだ……」
リンさんの脳裏には遠い昔の想い出が過ぎった。
「おい、ハヤシ(リンさんの本名)」
「へい」
「ヘイじゃねえよ、ハイだろうが」
「ヘイ、すいません」
「またヘイ!おめえは何度教えても解かんねえ奴だなあ」
「すみません」
「今日は、おめえにレベルの採り方教えるから、しっかり憶えろや!いいか、1回しか教えねえ。耳の穴かっぽじって聞くんだぞ。 その前にバケツに半分ぐらい水入れもっててこい」
「はい」
リンさん、十八歳の事だった。大工さんの世界では技術の無い下っ端を「手元」と呼んだ。今でいうパシリ、つまり使いっ走りである。リンさんがまだ手元の頃話し。
「わかたったか?」
「ハイ、でも……なんで水管使うんですか?」
「地球の重力は一定なんだ。この管の水の先端の位置とバケツの水位は同じ高さになるんだ。その先端の位置に印を付けておくと自ずからこの印がガイド(基準)になる」
「何でも基準が必要なんだ。家を建てるんでも、人生だってそうだ。自分がどうなりたいか基準ってえものがないと迷うことになるぞ。
人生の方向性の基準だ。あの広い海に出たって羅針盤ってのがあるから迷わずに航海ができる。その昔は星が基準だ。
その基準があるから自分を見失わない。憶えておきな」
「へい」
小森棟梁の話は建築の事に例えて人生をも教えてくれた。リンがもっとも尊敬し信頼する棟梁だった。
「リンさん、また目が宙に飛んでるぞ」仲間の大工達は笑った。リンは考え出すと手が止まる癖があった。
「リンさん、リンさん」
「あっ、また止まってたか?」
「止まってた・・今日は五分ほど」
大工仲間は全員笑った。
リンが結婚したのは二十五歳。妻の奈美と知り合ったのは大工仲間の紹介。 初めてのデートはススキノのディスコ「釈迦曼荼羅」リンの踊りは一風変わっていた。 金槌で釘を打つ格好やカンナがけの様子が踊りの中に入っていた。
奈美さんやまわりの人を楽しませた。その後、交際を重ねて結婚。自分で工務店を独立したのは四十二歳の時。棟梁の小森が亡くなったのを期に独立した。
決して順調な滑り出しではなかった。経費を払って終わり。給与は無しという月もあった。そういう月に限って、小森棟梁の話が思い出された。
「いいかリン、家の形を見たらその家の主人の人柄がわかるんだ」
「……どういう事ですか?」
「単純明快な人が好む家は、凹凸が少なく四角形の単純形が多い。複雑な形は変くつでこだわりの多い人が好む」
「思い起こせばたしかにそうです」
「だろう」
「これは誰でもわかることだが、家の周りが整理されてない家、手を掛けてない家は、子だくさんか借家が多い」
「なるほどです」リンは納得した。
「家の廻りが整頓されていて、植木や花の手入れのしてある家は、年寄りか生活にゆとりのある人が多い」
「小森棟梁は分析力あるんですね」
「分析でもなんでもねえ単なる経験だ! おめえもそのうちわかるよ。 俺の見立てでは、全てに几帳面で家だけ乱雑ってな人間はいねえ」
「家庭も仕事も繋がってるんだ。リンも将来家を持ったら几帳面に手入れしろよ。家は人間を表わす」
「よく大工の家は汚いって云うけど、そういう奴らは本当の大工じゃねえ。ぶっつけ大工てんだ。リンはそうなるなよ憶えとけ……」
「はい!」
「どうせ、大工になるなら本物の大工になんな、いいなリン。経営や数字の為の大工になるなよ」
「まあ、どちらを選でもそれはリンの勝手だがな……」
小森の棟梁には色々な事を教わった。
「仕事に馴れるなよ! 馴れはそれ以上にはなれねえ。そこで止まってしまう。これでよしと思ったらそれまでだ……
限界を設けるな! 大工にも大きく2通りある。 今がよければよしとそるそんな工事する大工と。 十年いやその先を見越した工事をする大工がいる。表向き一応どちらも大工だ。
どちらを選ぶんでも勝手だが、俺らは客の財産をいじってるんだ……忘れるなよ。財産は長く価値が変わらねえ、だから財産なんだ。数年で変わるような物は財産とはいえねえ」
リンは技術以外のメンタルな教えにも共感していた。言葉で言い尽くせない程いろんな事を小森から教わった。 自分の会社も小森棟梁に見習い経営したいと頑張ってきた。
ただ、小森棟梁には言葉に癖があった。青森出身のため訛りが激しく聞き取れない言葉も多くあった。
「へだりにこれを打ち込め」
「……棟梁へだりってなんですか?」
「へだりはへだりだべ。右、へだりのへだりだべ。馬鹿たれが!」
「あっはい……」
「リン、釘っこさ、わんつかよこへ」
リンは頭の中で言葉を整理した「釘っこ。くぎだよな。わんつか……わずか?少し。つまり釘を少しよこせか」
棟梁の言葉を頭の中で通訳するのだった。
リンが旅行で棟梁と青森のねぶた祭りを見に行った時。青森弁を違和感なく理解できる自分が不思議だった。
Hisaeはひと息ついた。
う~ん。このままでは面白さが乏しいなぁ。 これだと、なんの変哲もないただの生真面目なリンさんの自叙伝だよな…なんか盛り上がりに欠ける……
物わかりの良い、ただの大工の棟梁。 浮気? 倒産? 建築ミス? 特許……
Hisaeは奥さんからのメールを再度読み返した。 フムフム……なるほど、とりあえず今日は寝よう。
Hisaeは翌日の昼まで寝ていた。
あ~~寝た寝た。 いつもならコーヒーを飲んでキーボードに向かうのが日課。 今日はなにを思いついたのか、コーヒーを飲まずPCの前に座った。
リンは「熱の力学」に注目した。
熱は暖かい方から冷たい方へ移動。 暖気は上で冷気は下。地下熱は南極も赤道直下でも、地球何処でも一定の十五度。
これを効率よく利用出来たら、エネルギー問題を多少緩和か? 雪はゼロ度以上で融ける、道路の路盤温度をゼロ度にするには……呼び水、呼び暖気?解った。これがあれば、農家さんの夏冬のハウス内の冷気や暖気問題が多少緩和されるはず。 製品は特許を申請し瞬く間に世に広がった。
「ハヤシ空調システム」が農家で話題になっていた。 本人が考える以上に反響を呼び、瞬く間にハヤシ空調システムは農家に広まった。 特に冬場は、ビニールハウス内でストーブを点けっぱなしの、花農家には省エネと、開花の時期を調整できるとあって好評をよんだ。
多少の小銭が貯まったリンは六十歳を迎え引退した。 残りの人生を愛車NOAHをキャンピングカーに改装し、夫婦で全国の行脚の旅に出た。
リンさん六十二歳であった。
END
Hisaeはメールした。
さっそく製本し、この世で一冊の本「大工の棟梁リンさん」を送った。
早速メールが返信された。
「ありがとうございました。最後の仕事終いに間に合います。私の思っていた通りの出来にビックリしてます。主人に喜んでもらえると思います。にが笑いする顔が思い浮かばれます。
ありがとうございます。
林 奈美
間に合ってよかった。Hisaeはほっとした。
晃平のところでも髪切りに行こうかなあ?
END