小説請負人Hisae
8「1〇〇〇分の一ミリ」


HisaeはヘアーサロンKONAにいた。

「KOHEIくん、元気だった?」

「はい、Hisaeさんこそ久しぶりですね」

「景気悪いから久しぶりの美容室なの」

「今日もいつも通りのカットで良いですか?」

「そうねぇ。今日はボンズ頭で」

「ハイわかりました」

「オイ待て、普通本当ですか? とか、どうかしました?
何かありましたか? とか、聞かない?」

「Hisaeさんには無駄な言葉を吐かないようにと思って」

「……あんた正直ね! 思ったことすぐ言葉に出すタイプでしょ」

「えっ!」

「フフッ、いつも通りでいいわよ」

「はい!」

自宅に戻るとメールが入っていた。

Hisae様

SF小説を書いて下さい。 私は長年入院生活をしております。 たぶん一生涯病院もしくは、何らかの施設で余生を送ると思います。

このメールも通常のキーボードではなく、口に咥えた特殊なペンで操作しています。

私、視神美子を主人公にした小説をお願いいたします。 内容はスーパーマンです。

ただし、映画のスーパーマンの様に自由に空を飛び、人間の役に立つというものではなく、ミクロのスーパーマンになり、人間の体内に入って、人間の体にダメージを与えている様々な菌やガン細胞を撃退するという能力を持った人間。 そんな特殊女子、視神を描いてほしいです。

Hisaeさんならではのタッチで、リアルに描いてくれると信じて申込いたします。

余命少ない私の願いです。 どうでしょうか? 執筆して貰えますか?
視神 美子

なんか……なんか重そうな仕事。 風呂入って考えるか。
浴室から大きな声がした。

「アチャァ~~失敗した。髪洗ってもうた! 今、美容室行ったばっかりだぁ~が~っ」

風呂から出たHisaeはキーボードに手を置いた。

初めまして視神様。 仕事のご依頼ありがとうございます。
検討しましたが内容が難しい(重い)ため、少し考えさせて下さいませ。私に書ける内容かどうかじっくり考えさせて下さい。後日、メールで返答させていただきます。 Hisae

翌日、視神から又メールが入った。

「お考えいただきましたでしょうか?」

Hisaeはコイツ、せっかちなやつだな。

「昨日の今日では、まだ結論、出ませんよね。」

あったり前田のクラッカーよ。

早速、返信した。

「視神様、仕事のことはもう少し時間を下さい。 あなたに一度お会いしたいのですが、面会は出来ますか?」

「無理です。私は、とある病院の隔離病棟におります。 下界とはメールでのみ意思の疎通を図っております。ご勘弁下さい」

「では、視神さんの構想にある小説の概略だけでもお知らせ下さい。 Hisae」


視神から「私は普通の高校生。通学途中に交通事故に遭うんです。 それは生死を彷徨う事故で、それを機に私は特殊な能力に目覚めるんです。 その能力とは、私の体が小さくなるというもので、小さくなった私は医師から見放された患者さんや、現代医学では解決できない難病を、体の中に入って癒すというものです」
視神

HisaeはPCの前にいた。

「面白い!いままでには無い発想ね」

よし「お受けしたいと思います。どのような結末にしたいですか?」  Hisae


「ありがとうございます。最後は○○○でお願いいたします。 視神

解りました。努力いたします。
Hisae

「よっしゃ、頑張るべ!」



「1〇〇〇分の一ミリ」

あらすじ
これは普通の女子高校生Yosikoに起きたちょっと奇異な物語。

Yosikoは通学途中交通事故に遭った。それは生死をさまよう事故で、医者から両親に「覚悟して下さい」と宣告されるほどの重体だった。

しかし、事故から二週間後奇跡的に意識を回復した。 その意識不明のあいだに様々な体験をしていた。 退院後、自分の不思議な能力を駆使し、様々な敵と戦う様を描いた物語。


私は視神美子十六歳高校生。普通の女子高校生なの。学校も普通学校の普通科。父親が普通のサラリーマンで、母親はパートでスーパーのレジ係りこれも普通。 どこにでもある普通の三人家族です。 私にとっては普通が一番安心だった。 でも、そんな普通がある時を境に、奇異な生活というか体質になってしまったの、これから話す内容は、そんな私の普通ではない体験の話しです。

それは下校途中に起こったの。 友人のアケミとリエと三人で山中牧場のソフトクリームを食べながら歩いていたのね、
そしたら急に左から子供の三輪車が飛び出してきたの、それを避けようと咄嗟に後ろに飛んだのね、そこからどういうワケか意識がないの……?

話では、後ろに飛んだ時、頭を電柱に強打したらしい。 そして、病院に救急搬送された。 それから2週間点滴だけだったの。 痩せるかと思ったら全然痩せなかった……

えっ! その間、何やってたかって?

そこなの! そこが肝心な話なの!

病院に運ばれた時、私は病室の上にいたの。 で、もうひとりの私はベッド上で体中に管やら、いろんな医療具くっつけて寝ているの。

その横には両親と私の大好きな真智子婆ちゃんがいたの。 

そしたら、その浮いている私に「こっち…においで…」ってどこからか声が聞こえたの。 私が振り向いたら次の瞬間景色が変わってた。

何処だと思う? 途中でわかったけど私の体の中だったのよ。 超不思議でしょ………?

そして、その声の主が「いろいろ、見てこよう」っていうの。次の瞬間心臓の中にいたの信じられる? でも私、見たんだもの。この目でちゃんと。 そして血管を通って上に流されたの、次に出たのが脳だった。 そしたら又、声がしたの。

「この辺に血の固まりがあるから、自分で綺麗に掃除しなさい」って。

私は、いわれるまま、その血栓を手で根こそぎ取ったわよ。
時間は解らないけど最後の血栓を取除いたら急に意識が無くなったの。

そしたら、私ベッドらしき上にいたの。 体中に管が付けられているし「なんだこりゃ?」と思った。

そのうち看護師が来て、次にお医者さんが来たの。 しばらくして、お母さんと真智子婆ちゃんが来て二人は泣いていた。私が二週間意識不明だったって聞いた。

内心「違う! 私は意識あったの……」って思ったけど結局云わなかった。

「どうしてって?」だってその間、自分で自分の頭の血栓取ってたって言えないでしょ……?

で、話しはこれから、そして医者は「もう血栓はないし、意識もしっかりしてるから、退院を許可します」って言ったので退院したの。

母と婆ちゃんは「先生のおかげです」と頭を下げてた。

でも私は「血栓を取ったのは、あ、た、しがこの手で取ったの……」って言ってやりたかった。

しばらく静養してから学校に行く事になったの、これで以前と変わらず普通に戻ったと思った。

そしたら、ある日の放課後。 アケミちゃんがお腹を押さえてその場にうずくまったの……私は、ただ事ではないと思ったの。 そして、アケミちゃんの肩に手を置いたの、次の瞬間、また景色が変わった。 そこの雰囲気はまだ記憶に新しいのよ。そう!入院中に体験した私の体の中と同じ感覚。

「アケミちゃん」って思った瞬間に景色が変わったの、そしたら私がなにかの管のような中にいた。その管には大きい固まりが塞がるというか詰まっていたの。 私が経験した固まりとは違うけどこれが原因! と思った。

私は又、手で取ることにしたの……そしたら案外簡単に取れて血が流れたの。私が気が付いたら、アケミちゃん笑顔でケロッとしてたの。

「アケミちゃん、大丈夫?」ってリエちゃんが聞いたら急に痛みが取れたって言ってたわ。

その時、私はまだ気付いてなかったの、自分の能力に……
自覚したのはそれから数日が過ぎたころだった。

それは、父が風邪を引いて会社を休んだ時のこと、風邪の咳にしては変な咳だなって思ったの……
母も「ちゃんと病院に行ってちょうだい」って言ってたわ。

そん時は私も母も普通に家を出たの、 学校から帰宅すると父がソファーでぐったりしてたの。 私の呼びかけに反応しないし、すごい熱! ビックリしてお母さんに電話したの。

熱を診るのに父の額に手をやったの、瞬間またあの光景だったのよ、また移動したの。 今度は風をきる様な音がうるさいの、台風の様なびゅーびゅーとした音だった。
そしたら、たくさんの菌みたいな連中が集団で、ちがう透明な集団と戦ってるのよ。

私は「これって、なんかマズくない?」って思ったわ。
だから、透明な集団に加勢したの。 片っ端から手で叩いたりキックしたりね。そしたら、その菌がだんだん減ってきて終いにはいなくなったの。

私の意識が戻ってすぐ母が帰宅したの。何だか凄く疲れて、とりあえず部屋で着替え、父の所に戻ったら、顔色が良いの、ほっと一安心。

母は呑気に「熱も微熱だし、大丈夫よ」だって。

「さっきは大変だったのよ!」って言ってやりたかった。

その時、気が付いた。もうひとりの超!小さい私が、病人の体の中に入って、悪いところを癒してるんだって……はっきり自覚した。


Hisaeは手を止めた。

肉体疾患はこれで良しと。精神疾患どうする? 今日はとりあえず寝よっと。

Yosikoは月に一度の検査で病院にいた。待合室の向こうには母親に付き添われた娘さんが見えた。青白い顔をしたその子が患者らしい。 その子は母に付き添われ心療内科に入っていった。

「十八番さん」Yosikoの番だった。

例の医者が「Yosikoさん、その後どうですか? レントゲン結果もなんの異常もありません。来月もう一度検査して異常がなければ、その次は半年後でいいですよ」

看護師が「お大事にどうぞ」

Yosikoが会計を待っていると、隣の席に待合室にいたあの青白い顔の娘が座った。

彼女がハンカチを落としたのでYosikoが取ってやろうと手を伸ばした。同時に彼女も手を伸ばしお互いの手同士が触れた瞬間Yosikoは彼女の中にいた。

「これは?彼女? ここは何処? でも、なんか不安」

次の瞬間薄暗い空間にいた「ここは何処? あれっ?」向こうに女の子が座っていた。

その娘を見つめた瞬間その娘の横に立っていた。

自然に言葉が出てしまった「どうしたの?」

その娘は怪訝な顔をして「あんた、誰?」

「Yosiko」

「で、なに……?」

「私もわからない。気が付いたらここにいたの」

「だったら、あっちに行ってよ!」

「そうよね! じゃっ、そうする」

その娘が「チョット待って。どうやって、ここに来たの?」

「わからない」

「あんた、自分でわからないの? 面白い人ね…フフ」

「私もそう思う」

二人は笑った。何か解らないけど笑った。 そうしてるうちに、まわりの空気感も明るくなってきた。

「あんたといると、楽しいね……」

さっきまでの彼女とは全然違ってみえた。

「私もあなたに会えて良かったわ。でも、ひとついい?」

「なに?」

「この空間、見てごらん。明るいでしょ? ここはあなたの心なの。本当は明るいの。人生楽しんで……ガンバ!」

Yosikoはそう言っている自分に驚いた。 なんで私がこんな事言うの……?

次の瞬間待合室が目に入った。あの娘が、会計している母親の後ろに立っていた。 そして、Yosikoを見ていた。

Yosikoは我が目を疑った。

この娘がさっきの娘? 全然、違うジャン! 青い顔をしたあの娘は何処に行ったの? そのくらい違った。


また、いつもの学校生活が始まった。

リエが声を掛けてきた「Yosikoおはよう」

「リエちゃんおはよう」

「Yosikoその後からだの具合どうなの?」

「病院で検査したけど問題ないって言われたの」

「よかったね」

「うん、心配してくれてありがとう」

「リエちゃんはどう?」

「私は相変らず、でも、お婆ちゃんが最近元気ないの」
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