小説請負人Hisae
Yosikoが子供の頃から自分の孫のように、孫のリエと一緒に可愛がってくれていたリエの婆ちゃんだった。

「どうして元気ないの?」

「母親の話だと、一日中ぼ~っとしてるっていってた」

「ふーん」

「そうだ、今日の学校帰りに寄ってかない? お婆ちゃん、
Yosikoの顔見たら喜ぶかも、そうしようよ…」

「うん、わかった。そうだわたしお婆ちゃんの好きなどらやき買っていくね」

「ありがとう、じゃあ後で」

手みやげを持ってリエの家に行った。

「こんにちは、おじゃましま~す」

リエが「お婆ちゃん、Yosiko連れてきたよ」

お婆ちゃんは「こんにちは、初めまして」

母親とリエはビックリしてお互いの顔を見た。

リエが「なに言いってるの? Yosikoだよ、Yosiko」

「お婆ちゃん、Yosikoです。ご無沙汰してます」

「あっああ、Yosikoちゃんかい…ごめんね。最近、年のせいか忘れっぽいのよ、ごめんなさいね」

「いえ。 これ、お婆ちゃんの好きなどら焼き買ってきました。食べて下さい」

「Yosikoちゃん、ありがとうね」

「いえ」

それから二人はリエの部屋に行った。

「ごめんね、Yosiko…あんな感じなの」

「私は別に、気にしないで」

久しぶりのリエの部屋だった。

下から母親の声がした「みんなでどら焼き食べましょ。 お茶入れたから降りてこない?」

二人はリビングに行った。

母親が「頂いたどら焼き食べましょ」

お婆ちゃんはどら焼きの袋を開けるのに戸惑っていた。

「あっ! 私、開けます」Yosikoが言った。

お婆ちゃんが手渡そうとした瞬間Yosikoに手が触れた。つぎの瞬間ある空間にいた。

先日の病院での空間を思い出した。今度は空気がどんよりと止まった感じがした。 よく視ると、小さい子供が四人遊んでいた。その横でお婆ちゃんがニコニコしながらその子供達を見ていた。 幸せそうな顔をしている。 こんなお婆ちゃん見たことがなかった。

Yosikoは話しかけた「お婆ちゃん、 お婆ちゃん」なんの反応もない。

「お婆ちゃん、Yosikoです。解ります?」

お婆ちゃんの視界にYosikoは入っていなかった。

Yosikoはその場から自分に戻った。 リエのお婆ちゃんはまもなくして他界した。

Yosikoはこの特殊な能力のことを母親に話した。

「そういうこよなの。お母さんはどう思う?」

「本当なの……? それ!」

「だって、お父さんだって回復したじゃない。 リエのお婆ちゃんだけは私が見えなかったみたいなの。どういう事かまだ解らないけど」

「じゃあ、お母さんで試してよ」

「お母さん、どこか具合悪いの?」

「肩こり」

「肩こり? それって病気なの?」

「頼むわよ、痛いの」

「じゃあ、肩に触るね」

Yosikoは母親の右肩に手を置いた。 肩に意識を集中させたが、違うところに移動した。

どこ…ここ……?

Yosikoの意識に「視神経」と浮かんだ。そこがパンパンに張って炎症を起こしていた。 手でさすり始めた。まもなく弾力性を取り戻しピンク色の状態になった。

こんな感じかな?と思ったら勝手に違う部位に移動した。
あれ? 何処?「卵巣」えっ? 心にまた浮かんだ。

なんだろ? 「卵巣のう腫」あの声が聞こえた。

聞いたことのない病名だった。とりあえず腫れてそうな所をさすった。

意識が戻った。

「肩こりは視神経の炎症だって。 視神経の辺りが腫れてたから、私がさすっておいた。 あと、卵巣のう腫っていうのがあって、それもさすっておいた」

「さっきから肩の痛みが取れたよ。目が原因だったの?
それと、なんで卵巣のことわかったの?まだ誰にも言ってないのに」

「目をさすり終わったら、急に何処か解らない場所に移動してたの。 そしたら卵巣って教えてくれた。そして[卵巣のう腫]って声がしたの。そこに腫れがあったからさすっておいたの」

母親は最初、半信半疑だったが信用せざるおえなくなった。

「解った。 私は信用する。但し、この事は家族だけの秘密にしておこうね。 あんたも他言したら駄目よ。 こういう事はくれぐれも慎重にね」

「はい」


Yosikoはやがて高校を卒業し、OLをして結婚。二十五歳で第一子を出産し二児の母親となった。 ごく普通の平和な四人家族。

Yosikoが四十歳の年だった。 十六歳になった長女が下校途中ビルの屋上から落下物があり頭を強打した。
その場から救急搬送された。 奇しくも母親Yosikoが二十四年前交通事故で運ばれたあの病院だった。

訪れた家族は医者から「お嬢さんは、頭部の延髄、つまり生命維持を司る部位が損傷してます。 残念ながら時間の問題と思われます。 我々も全力を尽くしますが最悪の状況も覚悟しておいて下さい」

Yosikoは思い出した。私の時と同じ医師だった。 これも何かの運命なのか?
同時にYosikoに長年、封印していた遠い記憶が甦ってきた。

「先生、私をこの子に付き添わして下さい。お願いします!」

「許可します」母親の気迫に押された医師は許可した。

「まゆみ」Yosikoはそっと娘の手を握った。

同時に二十四年前のあの感覚が蘇ってきた。次の瞬間、意識はまゆみの頭部に移動した。

Yosikoは所かまわず必死に神経組織をさすりまくった。 みるみる間に腫れが引いてきた。 でも、肝心のまゆみの意識が見あたらない。 その時、リエのお婆ちゃんのことが思い出された。 次の瞬間、意識に繋がった。

あの声がした「旅立ち…」

「イヤ! イヤ! イヤ!だ、だ駄目!、まゆみ、逝かないで」

「神様、まゆみと私の命を交換して下さい。どうかお願いします。 まゆみ聞いて。返事してちょうだい。 ママよ!
返事してちょうだい!」

遠くにぼんやりと明かりが視えた。Yosikoは近づいた。

「まゆみ?」

「お母さん?」

「まゆみ!」

「お母さんどうしたの?」

「まゆみ、みんなの所に帰ろう。 あなたにはたくさんやることがあるの。 ここで止まるわけにいかないの」

「やること?」

「そう、やること」

その時、まゆみとは違う意識をYosikoはキャッチした。

「役目終わり」

「待って下さい!この子はまだ十六歳。 まだなにもやってません。これからです。どうか許されるなら私の寿命と取換えて下さい!」

「ちがう」

「えっ・・なにが違うの? どういう事ですか?」

まゆみは蘇生し目を開けた。

「お母さん、お母さん」突然まゆみは声を出した。

まゆみは意識を取り戻した。 その横ではYosikoが倒れていた。

看護師が「お母さん、娘さんの意識がもど……?」

看護師は母親の異変を感じた。

「お母さん、どうしました? お母さん!」

Yosikoは反応しなかった。

娘のまゆみは退院した。

Yosikoは植物人間となり闘病生活に入った。

病名「くも膜下出血による意識障害」

END 


Hisaeは手を止めた。

製本して送ろうと住所を聞いた。数日経ても返信がない。

「どういう事?」

もう一度メールした。

返信が来た。

私、視神まゆみと申します。
PCのメールを見て母宛にメールが届いていたのでびっくりしております。
母は、十数年前より意識がありません。この度、私のPCに母美子宛の着信があり返信しました。

どのようなご用件でしょうか? 悪戯ならおやめ下さい。  視神まゆみ

なに……? Hisaeは理解できなかった。 とりあえず、Yosikoとのやり取りを、そのまま添付してまゆみ宛てに送った。

返信がきた。

文面からして母の可能性があります。 ただし、母は十年前より意識不明です。不思議です。どういうことでしょうか?

あなた様の執筆なさった本にも興味があります。 是非一度お会いしたく思います。 よろしければ母の病室でお会いできませんでしょうか?
視神まゆみ

私がメールしていた視神美子はいったい誰なの? 

わかりました。お母さんの病院にお届けいたします。 住所と面会日を教えて下さい。

面会当日になり、とりあえず本と見舞いの花を持って指定された病院に行った。

待合いロビーに、まゆみらしき女性が座っていた。

「視神さんですか?」声を掛けた。

「はい、Hisaeさんですね」

二人は簡単な挨拶をしYosikoの病室に行った。

「失礼します」

そこにはYosikoと思われる生命維持装置を付けた女性の姿があった。

「母のYosikoです。十年間この状態です」

Hisaeは枕元で「出来上がりましたよ、大切なあなたの一冊です」そっと置いた。

その時、Yosikoの目から涙がひとしずくこぼれ落ちた。
Hisaeはそっと手で拭き取った。瞬間、薄暗い部屋に意識が飛んだ。

戸惑っていると「Hisaeさん、Hisaeさん」どこからか声がした。

「もしかしてYosikoさん?」

「はい、Yosikoです。ありがとうございます」

「本の依頼はあなたですよね?」

「ハイ、これで旅立てます。 まゆみにありがとうって伝えて下さい。Hisaeさん、ありがとうございました」

Hisaeは意識を取り戻した。まゆみに今起きた出来事を伝え病室を後にした。

まゆみは本を読んでるうちに涙が止まらなくなった。 間違いなく母しか知り得ない内容だった。 まゆみが事故にあった時の母の心の描写が今、明かされたからだった。 

まもなくYosikoはこの世を去った。

Hisaeがその死を知ったのは一通のメールだった。
差出人はYosikoだった。

これで旅立てます。本当にありがとうございました。
Yosiko

Hisaeはいつもの生活に戻った。

ふと、ところで1〇〇〇分の一ミリの執筆代金は誰が
払ってくれるの?

神様?閻魔様?どっちでもいいから払ってよね~~!

で、請求書はどっちに送ればいいのよ?

で、住所は?誰が配達するの?

これ、面白い題材ね頂き!

Hisaeは他人の身体の一部に手を触れると自分が
1〇〇〇分の一ミリになり、身体の中に入り込み病気を癒すという能力が備わっていた。

その力に気付くのは、ずっと後のことだった。

THE END
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