小説請負人Hisae
テレビでは震度2弱と報告されていた。震源地は中国の内陸部でマグニチュード七.五。 ゲゲ、Hisaeは言葉つまったった。

翌日のニュースでは「上流の三景ダムが崩壊し、下流域の街が水に飲み込まれ被害が甚大。人類史上最大の惨事では?」と報道した。

中国政府の体質上、事故の詳しい事は隠しているが、推定でも犠牲者三十万人以上に登るのではと懸念された。後日談で地震の規模も大きかったが、それに加えダム工事の下請け業者による手抜き工事が発覚した。震災と人災が加わった事故と判明した。

Hisaeは言葉が無かった。私ってノストラダムス。ヒサダムス? ・・・怖っ!

Hisaeは香織に書いた小説を読み直した。

「え~と、SMO電気の破綻と透明金属の開発、九州の鳥インフルエンザか」

Hisaeは完全に焦っていたが、気を取り直し又、通常の仕事に取りかかった。

良かった。小説の内容を知るのが私と依頼者の古屋敷香織さんで。一応メールしておこうと思った。

「先日はありがとうございました。小説の内容に酷似した事件が発生しましたが、あくまでも私が書いた物はフィクションであり、本事件は偶然の一致です。全然、他意はございませんのでご了承願います。Hisae」

返信が来た「私も驚いています。本当に偶然の一致という事があるんですね。当然他言は致しません。 古屋敷」

Hisaeは親友のSizueに事の次第を打ち明けた。

Sizueは「絶対偶然よ!そんなことは忘れて寝なさい」

「うん、そうする」


それから、ひと月が立った。

夕方のニュースで「SMO電気、経営悪化により倒産。負債総額二千五百億円、従業員一万五千二百人。SMO電気は即日、民事再生法の申請」と発表された。

「出た!」Hisaeはもう偶然じゃあないわよ。従業員数まで一致してるもの。

Sizueから電話があった。

「姉さんの言ってた事、マジ当たってる。そのほかに
何を書いたの?」

「広島大学の透明金属の開発と九州の鳥インフルエンザで30%の鳥を処分よ」

「ウソッ!さっき九州で鳥インフルエンザ発症ってニュースやってたよ。もう完璧」

「何が完璧よ」Hisaeは多少むかついた。

「Hisae姉さんに未来を透視する能力があるのよ」

「私はヨハネやノストラダムスじゃないからね」

「まあいいけど。もし広島大学の透明金属とやらの開発が発表されたら完全にHisaeダムスに決まりだからね」

「ひやかしは辞めてよね」Hisaeの言葉に力がなかった。

「Hisaeとりあえず寝てなさい」

「うん、解った・・そうする」


数日後、Hisaeはネットで、九州、鳥インフルエンザ被害と打ち込んだ。

すると、「九州の鶏の三十二%殺傷処分」と出ていた。

ついでに「広島大学、開発」と打ってみた。経済新聞がヒットした。内容を見てびっくりした。

「広島大学で透明金属の開発に成功!」という文字が目に入った。

HisaeはSizueにメールを送った。
「鳥インフルエンザで三十二%処分。広島大で透明金属開発とネットに流れていた。もう、疑いようがないみたい。
私、どうしたらいい?」

「最近、それ以外の予言みたいな事、書いてないの?」

「あれは、たまたま依頼があったから書いただけなの。あの小説の後にも先にも書いたこと無い」

「じゃあ、私が予言者になるという設定で書いてみない?」

「あんた、私で遊んでるわけ?」

「だって、試さないと解らないじゃない」

「考える!」


香織からメールがあった。

「先日来の一連のニュース、 私も驚きのひと言です。 と同時にHisaeさんが心の負担になってることと思います。どうかお許し下さい。 私なりに考えたのですが、当然、偶然の一致というレベルで語るにはできすぎだと思います。

あれは、何らかの原因が存在するはずと考えています。
当然、私ではなくHisaeさんに何らかの原因があると考えられます。

たまたま私の依頼がきっかけで、このような形になりましたが、Hisaeさんは自分で気付いていない特別な能力があるような気がします。

例えば(チャネリング能力)(透視能力)(時空を越えて未来を視る能力)などです。これは私のひとつの見解です。
失礼いたします 香織」


「ふ~ん? 能力ね? まっ。考えても仕方ないから仕事続けるしかないか……」

いつものようにHisaeはパソコンに向かった。


ある日の夕方。いつものようにHisaeはパソコンに向かって執筆作業をしていた。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、インターホンが鳴った。

「はい!」

「Hisaeさんのお宅ですね」

「はい、そうですけど」

「私、警察の者ですが」

「はぃ。警察の何課ですか?」

「生活安全課の上山と佐伯と申します」

「はい?で、何か用ですか?」

「古屋敷香織さんのことでお尋ねしたいことがありまして、恐れ入ります。 チョットよろしいですか?」

「はい、今、開けます」

Hisaeはドアを開けた。

刑事らしき鋭い目をした二人の男が手帳を開示した。

「どうしました?」

「古屋敷香織の事でお尋ねしたいことがあります。 Hisaeさんはこのお名前の女性をご存じですか?」

「はい、私のお客様ですが……」

写真を提示しながら「この顔に見覚えは?」

Hisaeが手にした写真は年の頃なら六十歳前後かと思われる品の良い女性。

「知りません。この方、誰ですか?」

「彼女が古屋敷香織さんです」

「ジェ・ジェ・ジェ~」Hisaeは驚いた。

「すみません。彼女は三十歳と聞いてましたので……」

佐伯が言った「ここでは何なので、差し支えなければ玄関に入らせてもらってよろしいでしょうか? お手間はとらせませんから」

Hisaeは部屋に二人を通した。椅子に腰掛け話し始めた。

「あっ、失礼します。早速ですが実は古屋敷香織さんなんですが、ご家族の方から署の安全課に捜索願が五日程前に出されております」

もうひとりの目付きの鋭い上山刑事が口を開いた。

「古屋敷香織さんのパソコンのメール履歴はHisaeさんへの送信が最後でした。それ以降メール及び携帯電話のメールや通信の形跡がないんですね、それで今日は直接Hisaeさんに会ってお話しをお聞きしたく訪問いたしました。古屋敷香織さんはご存じですよね?」

「はい、古屋敷香織さんは私のお客様です。間違いありません」

「最後に連絡を取られたのは憶えておりますか?」

「一週間前です。メールの内容はそちらで解りますよね」

「はい。ですが何度読んでも理解出来ない箇所があるんです。宜しければ、お仕事の内容をお聞かせ願えないですか?」上山が聞いた。

「お客さんの変わりに私が小説を代筆するという仕事ですが」

「芸能人のよくやる代筆ってやつですか?」

「代筆は代筆ですが自叙伝や小説です。随筆とはちがいますけど」

「どう違うんですか?」

Hisaeが語気を荒げて言った。

「失礼ですけど随筆って知ってますか? 自叙伝は? 違いわかります?」

少しいらついた目で佐伯が「すいません。勉強不足で」

「勉強不足ではありません。常識知らずです」Hisaeはきっぱり言った。

「…………」部屋に冷たい沈黙が走った。

「あの~う。古屋敷さんの依頼で、私が書いた本を読んでないんですか?」

「その様な本は彼女の部屋に見あたりません」上山が言った。

「そうですか、じゃあCDにして差し上げますから読んで下さい」

「今、簡単に説明願えませんかね」偉そうに佐伯が言った。

Hisaeはめんどうくさそうに話し始めた。

「客の要望に応じ、客を主人公にした内容でその方の好みの小説を執筆するの。自叙伝や随筆、SF小説、なんでも受けますの…… 小説の場合、お客の書いてほしい題材と内容をアレンジしSF、ファンタジー、純愛、風刺、メルヘンや童話、何でもOKです。最後は製本までの総てをしてお届けするの。

自称〔小説請負人〕です。そして、その客の中のひとりが香織さんで内容は当然彼女を主人公にした小説です。彼女が急に予言者になったというものです。 わかります?」

上山が「その小説がこのCDに書き込んであるわけですね」

「そう」

「はい、ありがとうございました。また、何かあったらお話を聞かせていただいてよろしいですか?」

「かまいませんけど」

佐伯と上山は部屋から退室した。

「ウエさん、彼女どう思いますか?」

「なにが、勉強不足ではありませんかだ!ったく」

「嗚呼腹立つ!あのおばさんの態度、きっちり調べさせてもらおうかね」上山は思い出しただけでむかついた。

2人は署に戻りCDを読んだ。

「????」

「この書いた日付、見たか?ウエさん」

「一連の騒動は事件の前に書かれたものだぜ」

「細工してるんじゃねえのかよ」

「いや、香織のPCの通信記録から見ても前もって書かれた物だ」

佐伯は黙って宙を見つめていた。

上山は「なんかのトリックですよ」

「トリック使うメリットあるか?」

「うん、そうですよね」

「こいつ(Hisae)は化けもんか?」佐伯が腕組みをした。

警察の調べでは、小説の内容を書いた日付後に、地震や小説にある一連の内容があることを確認した。

上山が「SF小説やSF映画のようなことが現実に起こりえるんだなぁ~世の中解らんことだらけだ」

佐伯が腕組みをしながら呟いた「香織探しは振り出しか」

Hisaeは古屋敷香織の事が気になっていた。

「その後、あの刑事さん達、なにも言ってこないけどどうしたものかな? こっちから電話するのもシャクに障るし……

小説の最後に本人をなんで失踪させたんだろう?

不可思議よねぇ~ こういう時は寝るか……

END
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