小説請負人Hisae
笹舟(バラード調)
今も心に残る
あの日あなたが最後に作ってくれた笹舟
夕日が眩しい川面の中で
あなたは呟いた。
これで最後だねって
私の頬に止めどもなく流れ落ちる涙
もういいの私は決めたの
私は思いをこの笹舟に乗せて
旅立つことにするの

私の思いはずっとあなたと一緒
あなたが逝ったその時から
私はあなたと一緒なの
だから私は旅立つ 
この笹舟に乗ってあなたのもとへ
だから私も旅立つ 
この笹舟に乗ってあなたのもとへ
争いのない理想の街
慈しみのある平和な街

etc

SANGA(UPテンポ)
都会が闇に包まれた時
お前は俺に語りかける
自由の長い旅に出てみよう
束縛のない自由な旅
そこに、お前を狂わす何かがある
そこに、お前を狂わす人が居る
そうさ、お前は旅に出るんだ
そうさ、お前はあるがままに あるがままに
今まで、見つけられなかったお前だけの居場所さ
お前らしく、お前らしく
ジャンプ、今、旅に出よう
ジャンプ、今しかない
ジャンプ、自分に帰ろう

ジャンプ、今、旅に出よう
ジャンプ、今しかない
ジャンプ、自分に帰ろう
etc

Miwaからのメールに詩が添付されていた。

ベタだけど、中学生の少女が書いた詩にしてはけっこういいね! この詩にどんな曲がついたのかな?Hisaeは、曲も聴いてみたい衝動に駆られた。


Mituは読み終わってからひと息ついた。

「これ中学女子の詞?今の日本フォークの連中に通用する詞だよなぁ……」

Mituは、わずかな重圧を感じ曲作りに入った。一週間で完成し、学校でMiwaに報告した。

「出来たよ。でも僕、楽譜に出来ないから……」

「わかったわ。今日、私の家に来られる?」

「うん、了解。掃除当番だから若干遅くなるけど、それに家に戻ってギター取ってからだから四時までには行ける」

「うん、待ってる」

緊張した面持ちの二人だった。

ピンポーン・ピンポーン

「ハイ、どうぞ」

Miwaの部屋に通された。

「なんか緊張するよ」Mituが呟いた。

「私だって緊張してるよ」Miwaが自分の胸に手を当てた。

「じゃぁ、笹舟からいくね」

コードAmから始まるしっとりとした前奏。ギターテクニックはまだまだ荒削りだったが、笹舟が川面に揺らめく様子と、詞の内容のようにどこか淋しげな感じが伝わってくるメロディーライン。

Miwaは拍手した。

「続けるね、SANGA」

曲のはじめはアルペジオでしっとりとバラード調。詩の変わり目からストロークで激しく表現した。

「Mituくん、凄い! 私、感動した。 Mituくんお世辞抜きで作曲の才能あると思う」

「いやぁ、詩の内容がボブディランや岡林風だったから、一時はどうなるかと思ったんだけどなんとか出来たよ」

「私、譜面に起こすからコード進行教えて」

これがMitu&Miwa初の合作であり処女作でもあった。

二人なりにアレンジをして曲は新たに編曲も加わり、素朴でありながら力強さの感じられる曲となった。

二人は、週に二~三日は笹舟とSANGAを練習した。月日が過ぎ自然の成り行きでお互いに意識し合い、交際するようになっていた。

二人は同じ高校に進学した。高校三年の春。MiwaがMituに提案をした。

「ねぇ、オリジナルの中からどれか一曲選んでYAMAPAミュージックコンテストに応募しない?」

その頃には三〇を越えるオリジナル曲が出来上がっていた。

「えっ、あの中島春雪も出たYAMAPAの……?冗談だろ、恥ずかしいよ」

「なんで? 思いで作りでどう……」

「想い出? もうMiwaとの想い出は十分出来てるよ」

「高校生最後のよ」

Miwaに押し切られる形で渋々了承した。

Hisaeは休憩した。

よし、順調と。久しぶりに風呂入るか。

ここは、YAMAPAミュージックコンテストの地区予選会場。2人は「Mitu&Miwa」という名でエントリーした。

曲は2人の処女作「笹舟」を選んだ。

コンテストは同世代から20歳代後半と思われる人達がエントリーしていた。

出番を待つ2人に突然後ろから女性が「ねえ、君達も出るの?私もなの。緊張するよね」

Miwaが応えた「はい、。緊張しまくりです」

「お互い、本選に向けて頑張ろうね」

女は勝手に言って勝手に去っていった。

Mituが言った「あのオバサン、感じワル!」

「次はエントリーナンバー18番、大友祐子。曲名傷心」

Mituが「あっ、さっきのオバサンだ」

「あなたの~燃える背中。だんだん小さくなる」

会場はその曲と歌声に魅了された。

Mituは呟いた「何という出だし。そして歌唱力と雰囲気このオバサンすげっ!」

曲が終わると今までで一番盛大な歓声と拍手。

「なにパワーに飲まれてんのよ。そろそろよ!」強気なMiwaだった。

「Miwa、あんがい冷静だね」

「だってしかたないでしょうが、あの人はあの人なんだから」

「まっ、そうだけど……」

「エントリーナンバー、二二番、Mitu&Miwa曲名笹舟」

アナウンスが流れ2人はステージに立った。

Miwaがマイクに向かった「笹舟、聞いて下さい」

編曲されたイントロは川のせせらぎを感じさせる調べ。アコスティックの繊細な金属音が会場に響いた。

「今も心に残るあの日 あなたが最後に作ってくれた笹舟……」出だしは、Miwaの繊細な声で始まった。曲半ばからMituがハモリを入れ歌い出した。

全体にまとまりのあるアレンジで詩の内容のような繊細さがアコスティックギターの音色で表現され観衆の心に届いた。
会場は大友祐子の時とは違った意味で、拍手と歓声が響きわたった。2人は高校生らしく深々とお辞儀をし楽屋に戻った。

また、後ろからあの声がした「良かったわよ」大友祐子だった。

Miwaが「あ・ありがとうございます」軽くお辞儀をした。

発表の時が来た。

地区予選の2組が全国本選への出場資格をもらえる。選ばれたのは大友祐子とMitu&Miwaだった。

帰りの列車の中で「どうする?」Mituが言った。

「どうするって?」

「本選に出るかってこと?」

「ここまで来たら出るのが当たり前じゃないの。それともMituくんびびってる?もしかして……」

「いや、僕達まだ未成年者だし。親の承諾をもらわないと…」

「いいわ、Mituくんに任せる断るならそれでもいいけど、これはおぼえておいてね、他の落選した人たちに申し訳ないよ。出ないなら初めから申し込みしなきゃよかったのに……」

Miwaは憮然とした態度で沈黙した。

後日、MituがMiwaの両親の了解を得ようと家に訪問していた。

緊張のMituは「お父さん、お母さん。……と言うわけで本選に東京まで行かせて下さい。僕達二人悔いを残したくないんです」

「お願い」Miwaも頭を下げた。

「いい想い出を作って来て下さい。結果に囚われず二人で楽しんで来て下さい。父さんと母さんは応援するよ」

2人は心がスッキリした。


東京武道館「YAMAPAミュージックコンテスト全国大会」

Miwaが「とうとう東京本戦に来たのね……私達」

「ああ、とうとう来てしまったね。最初は冗談で応募したのに、テープ審査二回と地区予選。道大会、そして全国大会。なんかあっという間にここまできたよね」

「ほんとね」

Miwaの後ろから肩を叩く人がいた。振り返るとあの大友祐子だった。

「大友さん、お久しぶりです」Miwaは親しみを込めて挨拶をした。

「とうとう本選まで来たわね『笹舟』あれはいい曲。お互い頑張りましょうね!」

「大友さんこそ『傷心』最高です。ガンバって下さい」

大友祐子は二番目のエントリーだ。堂々たる雰囲気とそれを上回る声量が観衆を引きつけた。 遠くで見ていたMituとMiwaは大友の素人離れしたステージに魅了されていた。

そしてアナウンスが入った「つぎはエントリーナンバー二八番、北海道代表Mitu&Miwa、曲名、笹舟」

会場に拍手が響いた。 

「高校生、ガンバれよ!」

Mituのアコスティックギターの前奏から入った。やはり本選会場は音が桁違いに良い。音楽の神に取り憑かれたように歌った。練習では絶対に出ないギターの音色が二人の心を高揚させた。音そのものを楽しそうに身体で感じていた。
地区予選とは何かが違う? やっぱり本選のパワーは凄い。MituとMiwaはそう感じていた。

そしてコンテストは終わった。

「審査員特別賞」を受賞。

帰省した二人は翌日、双方の家に報告の挨拶に向かった。

Mituが「しばらく会うのよそうよ。今回のことで頭が真っ白になったんだ」

「私も真っ白になってるの。なんか、心にぽっかり穴が開いたようなの……」

お互い連絡を取り合うのを控えた。

ふた月程経った頃学校から帰ったMituを待ち受けていた人間がいた。

「こんにちは、突然ですみません。私はYamapaミュージックの林と申します。先日のコンテストを見まして、君たちとお話しがしてみたくてお邪魔させてもらいました。この後Miwaさんのお宅にも伺う予定です」

「で、ご用件は何でしょうか?」Mituが言った。

「早速ですが、社でも今回の笹舟という曲。非常に評判が良く、レコーディングの話が出ているんですよ」

「はぁ」

「それで、君たちが良ければ我が社で用意したスタジオで本格的に録音してみないかと思いまして来ました」

「レコーディングですか……笹舟を」

突然のことでMituは呆然としてした。

「条件等について詳しくは後日正式にこちらから連絡します。今日は挨拶だけということで、この足でMiwaさんの所にも顔出すつもりです」

「あっ、はい…解りました」同席した母親は急なことで戸惑いを隠せなかった。

「ご主人にもよろしくお伝え下さい。では、今日は失礼いたします」

翌日、久々にMiwaの家で話をした。

「Miwaはどう思う?」

「Mituくんがよければ、私はOKだよ、このまま進学して就職するのもいいけど、自分の好きな音楽で食べていくのもいいかなって思ってる」

「僕も同じ考えだ。万一売れなくて他の道を行くようになったって全然、遠回りとは思えないんだ。やらないで後悔するんだったら、やって後悔したい。たぶん、やったら後悔しないと思うけどね」

「じゃあ、決まりだね。後は未成年だから親の承諾ね」

Miwaの声は弾んでいた。二人の心はコンサート以降穴が開いたままだった。やっとやる気が出て来た。


Hisaeは手を止めた。ここらで何か企んでいたのだった。ここまではとりあえず順風満帆ね。さて、どうしたものか?

その後、二人はデビューを果たし、順調に十年が過ぎた。そして十周年コンサートの打合せをしていた。

アマチュア時代からの担当、林が言った「君たちのデビュー十周年コンサートを全国ツアーという形でやってみないか?どう?」

Mituが「そっかあ、デビューして十年経つのか」

Miwaが「ほんと、あっという間に過ぎたね。がむしゃらに歩んだ十年だった。本当に早かった……」

そんな矢先。Yamapaミュージック倒産の連絡が林から二人にあった。負債総額百億円の倒産。緊急会議が行われた。
役員のひとりである林が二人に説明した。

「今回の件は僕も寝耳に水で、最近の音楽業界はCDが全然、売れなくなっていたらしい。その事は聞かされていたが、倒産の憂き目にあっているとは知らなかったよ、おまけに、経理の山田くんが二億円の横領をしていたらしい。 とりあえず君たちはヒット曲があるから、どこかのレコード会社が拾ってくれると思う。明日から意識を切り替えて頑張って欲しい。 力不足ですまない」

二人は自宅に戻った。

「Miwaはどう考える?」

「まだ三十歳だし多少の蓄えもあるから、わたし子供作ろうかな」

「それもいい考えだね。子作りは早いほうがっていうからね」
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