小説請負人Hisae
そしてMiwaは臨月を迎えた。分娩室に入る前に二人は顔を見合わせアイコンタクトを交わした。
どのくらいの時間が経っただろう、依然、分娩室から産声が聞こえてこない。
Mituは看護師に訪ねた。
「奥さん、がんばってますよ。もうすぐです」
看護師が走り出した。ん?ただ事ではない雰囲気!
Mituにも伝わってきた。
「ご主人さん、先生から緊急にお話があります」
嫌な予感がした。別室に通されたMituが聞いた話しとは。
「ご主人、お子さんの首にへその緒が絡まっていまして危険な状況にあります。このまま帝王切開に切り変えますが、母子共に無事という保証はありません。まんいちの状況も考慮して下さい。全力を尽くします。やむを得ず選択する場合当医院では母親を優先します。ご了承していただけますか?」
「はい、お願いします。妻優先で……」
Mituは初めて「神」に祈った。
「神様!どうかどうか2人を無事生かして下さい」
「おぎゃっ!おぎゃっ!」元気な産声だった。
「生まれたか、妻は?」
「奥さん元気です。無事出産なさいましたよ。頑張りましたよ」
「ありがとうございます。で、妻は?」
「はい、今、処置をしてますからお待ちくださいね。もうすぐ会えますよ」
二人の顔を見るまで安心できないMituであった。三十分後看護師が呼びに来た。
「ご主人さん、お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
2人は部屋にいた。
「うん、お疲れさん よく頑張ったね」
Miwaの胸に抱かれていた子は女の子。
「こんにちは、あなたの父親です。初めまして」
三十分程して看護師が病室に来た。
「ご主人さん、奥さんお疲れのようですのでこの辺で」
「あっ、はい」Mituは退室した。
マンションに戻り、名前を考えていたその時、電話のベルが鳴った。
「はい」
「山口さんですか?」
「はい、そうです」
「こちら、西南産婦人科ですが」
「はい、お世話になってます」
「今すぐ病院に来ていただけますか?」
「何かあったのですか?」
「奥さんの出血が止まらず様態が急変し一度、心肺停止したんです。今は蘇生してますが不安定な状態なんです。至急、病院にお戻り下さい」
「はい、解りました」
車の中で「頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に抱かれたがってる。頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に抱かれたがってる。頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に………」何度も何度も繰り返した。
Mituが病院に着いた。
担当医から「ご主人、奥様は今状態は安定してますが、まだ意識が回復しません。できる限り声を掛けてやってください」
「Miwa、Miwa、Miwa」
遠くで赤ん坊が鳴き声を上げた。Miwaの眉が微かに動いた。
Mituが「看護師さん、娘をここへ連れてきてもらえないですか?」
赤ん坊が看護師に抱かれ入ってきた。
Mituが「看護師さん、娘を泣かせて下さい」
医者が頷いた。そして看護師は医者の指示に従った。
赤ん坊は大きな声で泣いた。
一瞬Miwaの眉が動いた。赤ん坊の鳴き声に反応していた。
医者が看護師に指示した「この際、赤ちゃんを大泣きさせなさい。ご主人よろしいですね?」
看護師は「ごめんね」と小声で言った。
赤ちゃんの尻を3回叩いた。
「おぎゃ~ おんぎゃ~ ・おぎゃ~」
Miwaの目から涙が流れた。次の瞬間、Miwaの眉が微かに動いた。そして、手が動いた。何かを探しているようだ。
Mituが「赤ん坊をMiwaに」
泣いている赤ん坊をMiwaの横に寝かせた。確実にMiwaは赤ん坊を捜していた。 Miwaの指と赤ん坊が触れた瞬間、Miwaの目が開き赤ん坊を見た。強い母性本能。
母性本能がMiwaの意識を呼び戻したのだ。
Miwaは「Mituどうしたの? さっき帰ったんじゃ…」
医者は『もう、大丈夫!』と無言でMituに目配せした。
退院の日にはMiwaの両親も来ていた。2週間、Miwaと赤ん坊は里帰りだった。赤ん坊はピリカと命名した。
それから月日が過ぎ、MituとMiwaはデビューして三十七年。一人娘のピリカも二十五歳になり一児の母親になっていた。
母親になってからのMiwaの詞は深みが増した。MituとMiwaは、数多くのヒット曲を世に送り出し、日本音楽業界で揺るぎない地位を確立していた。
その後もMituとMiwaの活動は生涯続いた。
END
よし出来た。
Hisaeはキーボードを叩く手を止めた。早速製本し表紙を付けて送った。
山口美和 様
一通の手紙が添えていた。
この世で1冊だけの本「アーティスト」できあがりました。
Hisae
山口美和からメールが入った。
この度はありがとうございました。作品の内容にとても感動しました。
でも、読んでいて驚いたことがあります。私の出産の描写ですがこの小説と同じだったんです。お話ししていないのに出産シーンが克明に一致している事にビックリです。
そう、私も帝王切開でしかも出血量が多く心停止してるんです。驚きました……
思い描いていた世界がそこにこの本の中にあるんです。とっても感激してます。ありがとうございました。
追伸
主人のMituは昨年、心筋梗塞で他界しました。
息を引き取る前「僕達、あのまま歌い続けてたらどうなったかなぁ。今度、生まれ変わったら本当に音楽で飯を食っていこう」と話していました。
その言葉が頭から離れず今回は小説の中ですが、主人の意向に沿った人生にしたく、お願いいたした次第です。
この小説は主人へのレクイエムでもあるんです。
本当にありがとうございました。
山口美和
END
どのくらいの時間が経っただろう、依然、分娩室から産声が聞こえてこない。
Mituは看護師に訪ねた。
「奥さん、がんばってますよ。もうすぐです」
看護師が走り出した。ん?ただ事ではない雰囲気!
Mituにも伝わってきた。
「ご主人さん、先生から緊急にお話があります」
嫌な予感がした。別室に通されたMituが聞いた話しとは。
「ご主人、お子さんの首にへその緒が絡まっていまして危険な状況にあります。このまま帝王切開に切り変えますが、母子共に無事という保証はありません。まんいちの状況も考慮して下さい。全力を尽くします。やむを得ず選択する場合当医院では母親を優先します。ご了承していただけますか?」
「はい、お願いします。妻優先で……」
Mituは初めて「神」に祈った。
「神様!どうかどうか2人を無事生かして下さい」
「おぎゃっ!おぎゃっ!」元気な産声だった。
「生まれたか、妻は?」
「奥さん元気です。無事出産なさいましたよ。頑張りましたよ」
「ありがとうございます。で、妻は?」
「はい、今、処置をしてますからお待ちくださいね。もうすぐ会えますよ」
二人の顔を見るまで安心できないMituであった。三十分後看護師が呼びに来た。
「ご主人さん、お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
2人は部屋にいた。
「うん、お疲れさん よく頑張ったね」
Miwaの胸に抱かれていた子は女の子。
「こんにちは、あなたの父親です。初めまして」
三十分程して看護師が病室に来た。
「ご主人さん、奥さんお疲れのようですのでこの辺で」
「あっ、はい」Mituは退室した。
マンションに戻り、名前を考えていたその時、電話のベルが鳴った。
「はい」
「山口さんですか?」
「はい、そうです」
「こちら、西南産婦人科ですが」
「はい、お世話になってます」
「今すぐ病院に来ていただけますか?」
「何かあったのですか?」
「奥さんの出血が止まらず様態が急変し一度、心肺停止したんです。今は蘇生してますが不安定な状態なんです。至急、病院にお戻り下さい」
「はい、解りました」
車の中で「頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に抱かれたがってる。頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に抱かれたがってる。頑張れMiwa!!・頑張れMiwa!!子供がお前の胸に………」何度も何度も繰り返した。
Mituが病院に着いた。
担当医から「ご主人、奥様は今状態は安定してますが、まだ意識が回復しません。できる限り声を掛けてやってください」
「Miwa、Miwa、Miwa」
遠くで赤ん坊が鳴き声を上げた。Miwaの眉が微かに動いた。
Mituが「看護師さん、娘をここへ連れてきてもらえないですか?」
赤ん坊が看護師に抱かれ入ってきた。
Mituが「看護師さん、娘を泣かせて下さい」
医者が頷いた。そして看護師は医者の指示に従った。
赤ん坊は大きな声で泣いた。
一瞬Miwaの眉が動いた。赤ん坊の鳴き声に反応していた。
医者が看護師に指示した「この際、赤ちゃんを大泣きさせなさい。ご主人よろしいですね?」
看護師は「ごめんね」と小声で言った。
赤ちゃんの尻を3回叩いた。
「おぎゃ~ おんぎゃ~ ・おぎゃ~」
Miwaの目から涙が流れた。次の瞬間、Miwaの眉が微かに動いた。そして、手が動いた。何かを探しているようだ。
Mituが「赤ん坊をMiwaに」
泣いている赤ん坊をMiwaの横に寝かせた。確実にMiwaは赤ん坊を捜していた。 Miwaの指と赤ん坊が触れた瞬間、Miwaの目が開き赤ん坊を見た。強い母性本能。
母性本能がMiwaの意識を呼び戻したのだ。
Miwaは「Mituどうしたの? さっき帰ったんじゃ…」
医者は『もう、大丈夫!』と無言でMituに目配せした。
退院の日にはMiwaの両親も来ていた。2週間、Miwaと赤ん坊は里帰りだった。赤ん坊はピリカと命名した。
それから月日が過ぎ、MituとMiwaはデビューして三十七年。一人娘のピリカも二十五歳になり一児の母親になっていた。
母親になってからのMiwaの詞は深みが増した。MituとMiwaは、数多くのヒット曲を世に送り出し、日本音楽業界で揺るぎない地位を確立していた。
その後もMituとMiwaの活動は生涯続いた。
END
よし出来た。
Hisaeはキーボードを叩く手を止めた。早速製本し表紙を付けて送った。
山口美和 様
一通の手紙が添えていた。
この世で1冊だけの本「アーティスト」できあがりました。
Hisae
山口美和からメールが入った。
この度はありがとうございました。作品の内容にとても感動しました。
でも、読んでいて驚いたことがあります。私の出産の描写ですがこの小説と同じだったんです。お話ししていないのに出産シーンが克明に一致している事にビックリです。
そう、私も帝王切開でしかも出血量が多く心停止してるんです。驚きました……
思い描いていた世界がそこにこの本の中にあるんです。とっても感激してます。ありがとうございました。
追伸
主人のMituは昨年、心筋梗塞で他界しました。
息を引き取る前「僕達、あのまま歌い続けてたらどうなったかなぁ。今度、生まれ変わったら本当に音楽で飯を食っていこう」と話していました。
その言葉が頭から離れず今回は小説の中ですが、主人の意向に沿った人生にしたく、お願いいたした次第です。
この小説は主人へのレクイエムでもあるんです。
本当にありがとうございました。
山口美和
END