Pino(短編小説)
その夜ドリルは説明された通りの手順で眠りに入った。
ここは水島信夫の夢の中。 子分と思われる者三人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。 これから他の組の者と何かあるらしい。
水島が「いいか、お前達。 俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。
もし俺がおっちんでしまったらこの家業から足洗え。 そしてまっとうに暮らせ。 解ったな」
「ヘイ頭、解りました。 でも俺は頭を必ず護ります」
「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは
「なんなんだ? これから、もしかして抗争? そんな時にどうやって手紙を渡すの……?」夢の中のドリルは焦っていた。
次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。 これが夢のいい加減さである。 護衛役の政晴が急に立ち上がり、ドリルを威嚇した。
「何だ、てめえ! どっから出て来やがった?」
「はっ僕も解りません。 これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」
上着のポケットから手紙を出そうと、手を内ポケットに入れた瞬間、水島はドリルが胸からピストルを取り出すと思った。 次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。 政晴と他二名はドリルに飛びついた。
「ま、ま、待って下さい。 これは手紙ですから」政晴はドリルの手から手紙をむしり取った。
「頭、これ」と水島に手紙を渡した。
「なんでぇこれは?」 それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。
死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙。
「なめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸をつかんだ。
「おう、若いの。 俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。
もう少しましな嘘をつきな。 えっこらっ!」
ドリルも必死だった「まずは読んでもらえませんか? それから判断して下さい、頼みます」必死にドリルは訴えた。
「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。
ゆっくりと手紙を開いた。
『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。 あなたは優しい子だった。 人の道を外したのはお母さんのせいなの。 私も子供の頃にお母さんからいつも厳しく育てられた。 いつも反発したかったけど出来なかった。 そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を何故か信くんにやってしまったの。 お前は当然反発したけど私はお前になにもしてやれなかった。 今になって本当に悪く思っています。 信くん、ごめんなさい』
その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。 そこで夢から覚めた。
「かぁ~殺されるところだった」
夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散。 水島信夫組長以下百三十五名は刑に服す者、かたぎに戻る者、田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を解散する動きが相次いだ。
それを知ったドリルは自分のやっている誰にも語れない不可思議な役割が、少しは世の為になってることを誇らしく思った。
ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。
ファイは手紙を渡し「これ……」
「ファイさあ、今日はチョット聞きたいことあるんだ」
「僕のわかる事ならいいけど、なに?」
「ファイはどこの世界からここに来てるの?」
「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は四次元で僕は五次元だよ」
「ここは三次元じゃないの?」
「正確には三次元に時間が加わるから四次元なんだ」
「じゃあ、この手紙も五次元から?」
「そうだよ」
「死んだ人が逝く世界?」
「そう、但しその上に逝く人もいるよ」
「その上って?」
「解りやすくいうと神に近くなるってことさ」
「えっ、神様っているの?」
「大いなる神は存在するよ。 君たちの考える神と違うけど、本当の神はチョットずぼらだけど存在するよ」
「ずぼらな神か……? 面白い。 じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」
「ドリルはどうなると思う?」
「三次元とかに落ちるの?」
「違うんだ。 やはり五次元に戻るんだよ」
「戻るって? この世より上ってこと?」
「そう、それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。
こっちの世は下なんだよ。 これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないというものなんだ。 そういう意味で人間は総時限の中でいうと下の次元なのさ」
「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳? ファイ、それっておかしくない?」
「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。 但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。 つまり一般的にいう地獄ってやつ。
みんな自分で選んでるのさ。 この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな存在もいるだろう。
魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、なかには死んだ事を知らずに、周波数の低い場所を漂ったり、マイナーな世界に移行するものもいる。 閻魔様が決めるんでなく、全ては自分で行き先を決めてるのさ」
「じゃあ、仏教の見解と違うね?」
「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。 本当は今、僕が説明した様に地獄も五次元。 解ってもらえたかい?」
「なんとなく……」
「そのうちドリルにも解るよ」
「で、本題。 はい、これ今度の仕事だよ」
END
ここは水島信夫の夢の中。 子分と思われる者三人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。 これから他の組の者と何かあるらしい。
水島が「いいか、お前達。 俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。
もし俺がおっちんでしまったらこの家業から足洗え。 そしてまっとうに暮らせ。 解ったな」
「ヘイ頭、解りました。 でも俺は頭を必ず護ります」
「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは
「なんなんだ? これから、もしかして抗争? そんな時にどうやって手紙を渡すの……?」夢の中のドリルは焦っていた。
次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。 これが夢のいい加減さである。 護衛役の政晴が急に立ち上がり、ドリルを威嚇した。
「何だ、てめえ! どっから出て来やがった?」
「はっ僕も解りません。 これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」
上着のポケットから手紙を出そうと、手を内ポケットに入れた瞬間、水島はドリルが胸からピストルを取り出すと思った。 次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。 政晴と他二名はドリルに飛びついた。
「ま、ま、待って下さい。 これは手紙ですから」政晴はドリルの手から手紙をむしり取った。
「頭、これ」と水島に手紙を渡した。
「なんでぇこれは?」 それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。
死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙。
「なめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸をつかんだ。
「おう、若いの。 俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。
もう少しましな嘘をつきな。 えっこらっ!」
ドリルも必死だった「まずは読んでもらえませんか? それから判断して下さい、頼みます」必死にドリルは訴えた。
「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。
ゆっくりと手紙を開いた。
『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。 あなたは優しい子だった。 人の道を外したのはお母さんのせいなの。 私も子供の頃にお母さんからいつも厳しく育てられた。 いつも反発したかったけど出来なかった。 そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を何故か信くんにやってしまったの。 お前は当然反発したけど私はお前になにもしてやれなかった。 今になって本当に悪く思っています。 信くん、ごめんなさい』
その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。 そこで夢から覚めた。
「かぁ~殺されるところだった」
夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散。 水島信夫組長以下百三十五名は刑に服す者、かたぎに戻る者、田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を解散する動きが相次いだ。
それを知ったドリルは自分のやっている誰にも語れない不可思議な役割が、少しは世の為になってることを誇らしく思った。
ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。
ファイは手紙を渡し「これ……」
「ファイさあ、今日はチョット聞きたいことあるんだ」
「僕のわかる事ならいいけど、なに?」
「ファイはどこの世界からここに来てるの?」
「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は四次元で僕は五次元だよ」
「ここは三次元じゃないの?」
「正確には三次元に時間が加わるから四次元なんだ」
「じゃあ、この手紙も五次元から?」
「そうだよ」
「死んだ人が逝く世界?」
「そう、但しその上に逝く人もいるよ」
「その上って?」
「解りやすくいうと神に近くなるってことさ」
「えっ、神様っているの?」
「大いなる神は存在するよ。 君たちの考える神と違うけど、本当の神はチョットずぼらだけど存在するよ」
「ずぼらな神か……? 面白い。 じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」
「ドリルはどうなると思う?」
「三次元とかに落ちるの?」
「違うんだ。 やはり五次元に戻るんだよ」
「戻るって? この世より上ってこと?」
「そう、それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。
こっちの世は下なんだよ。 これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないというものなんだ。 そういう意味で人間は総時限の中でいうと下の次元なのさ」
「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳? ファイ、それっておかしくない?」
「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。 但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。 つまり一般的にいう地獄ってやつ。
みんな自分で選んでるのさ。 この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな存在もいるだろう。
魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、なかには死んだ事を知らずに、周波数の低い場所を漂ったり、マイナーな世界に移行するものもいる。 閻魔様が決めるんでなく、全ては自分で行き先を決めてるのさ」
「じゃあ、仏教の見解と違うね?」
「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。 本当は今、僕が説明した様に地獄も五次元。 解ってもらえたかい?」
「なんとなく……」
「そのうちドリルにも解るよ」
「で、本題。 はい、これ今度の仕事だよ」
END