恋は、秘密主義につき。
「・・・美玲!!」

普段の数倍も低い声で聴こえて。強く体が引っ張られる。
やっぱり男の子。力で適うはずがありません。あ、っと思った時には一実ちゃんの胸元に抱き寄せられていました。

「言ってくれなきゃ分かんないよっ、美玲。ボクがなんかしたんだったら、謝る! なんで泣いてんのさ・・・っ」  

振り絞るような辛そうな声に。ポロポロと涙が零れて止まらない。

「・・・一実ちゃんの、せいじゃ、・・・ない、です・・・」

込み上げてくるものを堪えながら、肩を震わせた。

「でも泣いてんじゃん・・・」

弱弱しい響きは、いつもの一実ちゃんからは想像もできないほどで。
こんな風に困らせているのは自分なんだと、心底いたたまれなくなった。

「一実ちゃんじゃ、ありま、せん・・・っ」

首を横に振り。
貯めてから一息に吐き出すように。自分の中で黒々と渦を巻いた感情を、順番もなく胸の中から押し上げる。

「・・・ッッ、私が。いやだっただけ、・・・なんですっ。佐瀬さんが、一実ちゃんには笑うのを、見てたくなかった・・・! 私には笑ってくれないのに、あんな風に話したりもしてくれないのに、どうして・・・っ。一実ちゃんならいいのか、・・・って!」

こんな繁華街の、往来のある歩道で。すらっとした長身の女の子に、小さい女の子が抱き締められてる図は。少なからず目を引いていたと思う。
でもそんなことも構わなかったくらい、他は何も見えなかった。なにも。

自分の中にこんな激しいものが生まれることすら。

ぜんぶが制御不能で。

「ごめ、・・・なさい。自分でもわからない、です・・・。もう・・・っ」



どうしてこんなに、胸が千切れそうになっているのかも。
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