恋は、秘密主義につき。
「佐瀬サンだったら、美玲はナニあげる?」

その質問に、思わず真剣に考え込む私。

サラリーマンと違ってネクタイは普段からしてませんし、好きそうなものって言ったら。・・・・・・煙草くらいしか思いつきません。となるとライターとか。

「あっ」

その瞬間、閃いた。

「バングル・・・!」

「バングルねー」

意外そうな表情の一実ちゃんに頷いて見せる。

「初めて会った時に、シルバーで黒っぽい模様が入ったのを左手首に付けてたんです」

「あー、なに気にクロムハーツとか似合いそうよねー」

人気のジュエリーブランドを口にして、悪戯っぽく笑む彼(彼女)。

「いいんじゃない? 知りたかったら、本人にイロイロ訊いてみるのがおススメだけど?」

知りたいこと。
・・・彼のことは、なにも知らない。

兄さまと彼は、たとえば『親友』とか、仲の良いお付き合いとは少し違うようですし。
今までどんなお仕事だったかも、うやむやで教えてくれませんでした。

私の警護をしていない時は、何をしているのかとか。
どこに住んでいるのかとか。
家族はどうしているのかとか、独りで暮らしているのかとか。

佐瀬さんの気怠げな横顔が思い浮かぶ。
運転席の彼を隣りで見ているからか、真正面からの表情は記憶が曖昧。
煙草を吸う仕草。傾けられる視線。
頭に乗せられた掌の大きさ。
私が知っているのは、たったこれくらい。

ドアをノックしたら、無下に追い返したりする人じゃないって分かった。
でも。
誰もを無闇に招く人でもない。・・・気もした。

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