恋は、秘密主義につき。
「・・・参ったねぇ」

ポツリと呟き。佐瀬さんは大きく肩で息を吐く。埒が明かない、とでも言いたげな。

男の子は自意識過剰なのか、引っ込みがつかなくなっただけなのか。抜いた鞘を元に戻しそうな雰囲気でもなく。
いつもだったら、とっくに女の子じゃない方で凄んで追い払っているはずの一実ちゃんは。どことなく成り行きを楽しんでいるように黙っています。

「年寄りに絡んでるほど、ヒマでもねーンだろ? ・・・つか、たまには相手見て絡まねーとケガすンぞ、にーさん」

「偉そうに言ってんじゃねーよ、オッサン・・・!」

嘲笑いを歪めて吐き捨てるその男の子に、他の二人が「ほっとけよ」と行こうとしても、彼は不満気に佐瀬さんを睨み付けたまま。
一触即発の危うい空気に、一実ちゃんの腕を掴んだ指にきゅっと力を籠める。大丈夫とでも言うように、上に重なった一実ちゃんの手。

「ほんとウゼェんだよ。・・・マジ殺すぞ、ジジィ」

数段トーンの下がった脅し文句。
冗談でもない殺気めいた気配を感じて、躰が思わず前に飛び出しかけた。
それをしっかり一実ちゃんに掴まえられてしまう。

「一実ちゃん・・・っっ」

「いいから、見てて」

焦る私に小さく首を横に振り、彼(彼女)は薄く笑みを浮かべる。

「あのひとがどんな人なのか、ちゃんと見極められるチャンスなんだから」

そう言って真剣な横顔を覗かせていた。・・・とても凛凛しい顔付きで。
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