恋は、秘密主義につき。
“今日は付き合ってくれて、ありがとう”。出だしは、そんな風に。

“許嫁とは言えゼロからのスタートと同じだから、自分の力でレイちゃんを捕まえに行く。これからもよろしく。おやすみ”

「征士君らしいですねぇ・・・」

ぽつり、呟いた。

前向きで努力を惜しまない人なんでしょう。どことなく、胸の内側がきゅっとなる。
誠実そうで、結婚したら夫としても父親としても満点そうな。私ではもったいないんじゃないかとすら、思えそう。

画面の文字をもう一度追いかけ、どう返信しようかと頭を捻る。まずはお礼と、・・・それから?
当たり障りのない社交辞令じゃなく、今の気持ちを伝えようと思うけれど、どうにも曖昧で形になってこない。

好きか嫌いかで言えば、嫌いじゃないことははっきり分かっていた。だけどもその先をまだ描けない。心が揺さぶられるほどの、何かがない。まだ。

しばらく悩んで。文字を打ち込んでいく。

“こちらこそ、ありがとうございました。水族館はとても楽しかったです。私は人よりペースが遅いので、ご迷惑をおかけするかもしれません。それでは、おやすみなさい”

ウサギがお辞儀をしているスタンプと一緒に送信すると、すぐに既読がついた。そして通知音。彼からの返信。

“レイちゃんは、レイちゃんのままでいい”

親指を立て、サインを送ってる元気なパンダのスタンプ付きだった。
『分かりました』と送り返せば、『会うの楽しみにしてる。またね』。まるで恋人同士の会話みたいで。
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