恋は、秘密主義につき。
見ていたら。佐瀬さんはひととおり箸を付けていたので、あまり好き嫌いも無さそうです。ノンアルコールのビールを物足りなさそうに飲んでいて、お酒は強いのかも知れません。・・・見た目ですけど。

コロナを何杯かおかわりした一実ちゃんが、冗談めかしては佐瀬さんを会話に引き込み、気が付けば。会社での私の失敗談や、たぁ君のストーカーぶりまで披露しています。

「ねぇ佐瀬サン、独身? 一人暮らし?」
「結婚は?」
「何月で何歳?」
「兄妹いる?」
「地元、どの辺?」

「オレの個人情報、どっかに売り飛ばす気か?」

立て続けの質問に、彼が呆れ顔で溜め息を吐いて見せても、一実ちゃんは悪びれもしません。

「フツウでしょ、このぐらい」

言い切られた佐瀬さんはうんざりした表情を隠しもしないで、億劫そうに口を開く。

「2月で35、兄弟は下に二人、今は独りってコトにしてる。・・・以上」 

「なにそれ、『にしてる』って微妙すぎでしょー。しかも、答え抜けてるし!」

今度は一実ちゃんが呆れ返せば。

「そーいうのは、惚れてる女にしか教えねーンだわ」


刹那。人が悪そうに口角を上げながら言った彼の言葉が。冷たい鉛の銃弾になって心臓に、めり込んだ。


私には彼を知る権利がないって。・・・そう、背を向けられた。気がした。
< 131 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop