恋は、秘密主義につき。
席に戻ってからも変わらずに一実ちゃんは、時折り佐瀬さんを巻き込みながらお喋りを再開し。グラスのウーロン茶を少し残したところで、「そろそろお開きにした方がいいわね」とお姉さんぽく笑った。

食事代もきちんと三人で割り勘と決め、佐瀬さんはどこか居心地が悪そうに。

「フツウは歳上が出すモンじゃないのかねぇ」

「佐瀬サンの立ち位置って、まだそういうんじゃ無いでしょ?」

一実ちゃんが愛らしい口許に含み笑いを乗せて、そんな風に言うと。
彼は少し目を見張り、溜め息雑じりに頭を掻いて見せたのだった。




電車の路線が違う一実ちゃんとは駅の改札でお別れで、買い物に付き合ってくれたお礼に、次は映画の約束をしました。
笑顔で手を振り合い、人混みに紛れていく後ろ姿をしばらく見送っていると、「・・・行くぞ、お嬢ちゃん」と佐瀬さんの声がして。
隣りを見上げたと同時に目が合った。
離せずに。数秒。僅かに逸らしたのは彼が先だった。

また私がはぐれそうになると思ったのか、黙って肩に手が回され、ホームへの階段に向かって並んで歩き始める。

見た目より逞しい腕が背中に密着しているのを、つい意識してしまえば。
心臓が破裂しそうになって、顔中に熱が勝手に集まっていました。

彼にとってはこれは『仕事』なんだとしても。
嬉しいなんて。子供みたいだって、・・・分かってはいても。
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