恋は、秘密主義につき。
俯き加減に言葉が途切れてしまったのを佐瀬さんは、あやすようにポンポンと黙って私の頭を撫でる。

「独りになりたい時もそりゃ、あるンだろーけどな。お嬢ちゃんみたいのがこんなトコにいたら、カンタンに浚われちまうぞ?」

確かに実年齢より幼く見られたりはしますけど。

「さすがに知らない人についていったりは、しないですよ?」

ひどく子供扱いをされた気分になって、ほんの少しだけ口を尖らせ気味に。
すると、口角を上げた彼が人が悪そうに言うのです。

「あのな。もし、財布落として困ってるから交番まで案内してくれって言われたら、どーする」

「それは。困っていれば、やっぱり放っておけないです」

「そうやってお人好しは騙されて、ヘタすりゃ殺される。正直モノがバカをみる時代だ、今は」

時折りニュースにもなる悲惨な事件が頭を過ぎった。

「世の中の人間すべてが悪人とは言わんがね。信じられンのは一握りだ。特にお嬢ちゃんは、疑うってコトを憶えた方がいい。・・・少しはな」

淡淡と。そんな風に言って彼は。仰ぐように遠く、眼を眇めたのでした。
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