恋は、秘密主義につき。
佐瀬さんは私が何を言おうとしていたかを、まるで見通していたみたいでした。
言葉を呑んで固まる私から視線を逸らし、背もたれに寄りかかったまま、おもむろに青天井を仰ぐ。

「・・・保科にも言われたろ、オレとは仲良くすンなって」

冷たくも温かくもない、いつもの口調で。
背を向け、目の前の扉を。ゆっくり閉ざしていく。

「言うコト聞いて、あの許嫁のボーヤと結婚すンのがお嬢ちゃんの為だ」

他人事のように聴こえたそれが。今までで一番悲しくて、残酷でした。

何も言わせてももらえなくて。
何も無かったように、気持ちを置き去りにされてしまう。

始まりさえ無いから、終わらせることも出来ない。
・・・ひどいです。貴方は。卑怯です、佐瀬さんは・・・!

堪えていたものが胸の中でぱぁんと弾けて、大きな火花が散った。
膝の上のキャスケットを握る指に、怒りにも似た力が籠もって。
煽られる焔のように突き上げてくるものに気が付いた時には、もう止められませんでした。
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