恋は、秘密主義につき。
隣りで佐瀬さんが深く息を吐いた気配に。

面倒臭い子供のお守りなんてもう真っ平だと言われるくらいの、覚悟もつけて。覆った顔をさらに俯かせた。

「・・・なんでオレなんかに惚れるかねぇ・・・」

やがて、ぽつりと呟く声が聴こえた。
と思った時にはいきなり手首を取られて、顔から手が剥がされ。あっという間に、佐瀬さんの胸元に強く抱き込まれていました。

「保科に殺されンのは、真っ平なんだがな」

頭の上でうんざりした響きが漏れ、私はそこから逃れようと非力な身を捩る。これ以上彼を煩わせるのだけは、もう嫌で。

「・・・・・・離して、ください。私のことはいいです、から・・・」

黙ったままの。
シャツ越しの体温と、背中に回った腕。肩を包む武骨で大きな指。
貴方とのこの距離はゼロなのに、心まではどれだけ離れているんでしょう。

手を伸ばす前に。貴方は私にその手を下ろさせた。
届かせる必要はないんだと。
最初から私の気持ちには応えるつもりがないのだと。

それが却って。私を打ちのめしていました。

「・・・・・・好きでもないのに・・・、ど・・・して優しくするん、ですか・・・」

胸元に顔を埋めたままで、弱弱しく声を震わせる。
彼には非難めいた響きに聴こえたかもしれません。

「・・・さてねぇ」

独り言のように言った佐瀬さんの本心が、少しも分からなかった。
涙がシャツを湿らせていっても。放してくれない彼がもっと。

・・・私には分かりませんでした。
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