恋は、秘密主義につき。
佐瀬さんはずっと黙ったままで。
行き先を失くして手元に残ってしまった想いの残骸をきゅっと握り締め、私はぎこちなくそっと躰を離した。

「・・・一人で帰れますから、大丈夫です」

傾くにはまだまだの陽射しを背に、荷物を手にベンチから立ち上がると。
目を合わせずに小さく頭を下げて、これだけは言わなくちゃと思ったことを一息に吐き出す。

「私の警護を続けるかは、佐瀬さんが決めて下さってけっこうです。兄さまには私から謝ります。楠田ならボディガードが必要な人も他にいますし、次のお仕事も必ず紹介してもらえるように頼んでみます。・・・ご迷惑はかけないようにしますから・・・!」

もう少し大人だったなら。後先を考えて、感情に任せたりはしなかったのかも知れません。
後悔しても取り返しもつかない。話にならない未熟なお子様で、自分勝手で! ・・・情けなくてどうしようもありません。

引き攣るような胸の痛みは、当然の罰なんだと思いました。
私の独りよがりな想いに彼を巻き込んでしまった罰。
この先も。痛み続けながら貴方を想う罰。


ゆっくり頭を上げ、最後くらいは笑顔で。

「ありがとうございました」

そう言って別れるつもりでした。

何だか佐瀬さんの前で泣き顔ばかり見せていて。
きっと私のことはすぐに忘れてしまうでしょうけど、泣き虫の面倒臭い子供で終わるのは、あまりに自分が可哀想すぎます。

懸命に涙を堪えて笑ったつもりでしたけど。
自分ではよく分かりませんでした。
あとは前を向いて毅然と歩き出して見せれば。・・・それで。


踵を返し一歩を踏み出そうとしたのに。強く引っ張られて躰が一瞬宙を泳いだ。
背中に勢いよくぶつかった衝撃があって、後ろからきつく抱きすくめられたのだと気が付くのに。・・・とても長くかかった気がしました。
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