恋は、秘密主義につき。
「・・・・・・勝手に終わらせンな」

え?

抑え込んだような低い唸り声が耳の上あたりで聴こえ。驚いて心臓が止まるかと思う程、大きく跳ね上がった。

いつになく冷ややかな気配に、狼狽えて振り向こうとするけれど。佐瀬さんの腕はびくともしない。

「でも、あの・・・」

「仕事降りる気もねぇよ」

遮るように言い切られて、口を噤む。

「・・・お嬢ちゃんに教えてないコトがある。それを知ってオレを降ろしたいなら、好きにすりゃいい。・・・来れば教えてやる」

嫌なら来なくて、いい。

頭の上で低くそう呟かれた時。
もっと別の何かの。選択を迫られている気がしました。
そうじゃない何かを。私に委ねようとしているような。

知ることが、佐瀬さんに近付くことになるのかどうか。
一実ちゃんが言っていた、海の魚と川の魚という言葉が不意に過ぎり。

躊躇いが少しもなかったかと言えば嘘です。
でも。


「・・・行きます」

しっかり頷いて見せると佐瀬さんは私の肩を抱き、黙って歩き出した。

やけに心臓の音が耳の奥に響いて。この脚が踏み出す先に、何があるのかと。固唾を飲む緊張感に包まれながら。


不安は少しもありませんでした。
嘘はない人だって、・・・信じていましたから。


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