恋は、秘密主義につき。
跨るような格好で佐瀬さんが私を見下ろす。
本当に。今まで生きてきた中で感じたこともないような緊張感で。躰も表情もカチコチに強張っていたと思う。
突き破って飛び出るんじゃないかってくらい激しく脈打った心臓が、今にも壊れそうな音を立てていて。圧し潰されそうで。息が。できない。

「・・・怖いか」

冷たくも温かくもない、ただ突き抜けるみたいな眸に。
ぎこちなく微かに首を横に振った。

怖くはなかった。
好きな人と躰を合わせるのは、とても幸せなことだと私は知っている。
心だけじゃなく、その人と繋がれたことが。すごく愛おしくなる。

佐瀬さんのもっと近くにいきたい。
その腕の中にいさせてほしい。
私に近付いてほしい。

この時しかないのなら、いま奪われたい。
偽りのない本心。

「可愛いねぇ、・・・オマエは」

ふっと。見せたこともないような柔らかさで、笑ったのが見えた。
垂れ気味の目許が涼し気だった。

・・・ああ。これも本当のあなた・・・・・・。

なんだか、ひどく嬉しかった。
切なくてたまらない気持ちでいっぱいだった。
勝手に両手が伸びて、佐瀬さんの頬を掌で包んでいました。
少しだけ目を見張った彼は、「おねだりか?」と妖しく口角を上げる。

ベッドのスプリングが軋み、ゆっくり覆いかぶさってくる重みを受け止めながら。静かに目を閉じた。


自分が自分じゃなくなるような臨界(ところ)まで。
大きくうねる熱と、押し上げる高波に浚われ続けて。暴かれて。


泣きながら何度も昇り詰めて。彼が低く呻いて果てる声を。遠くに聴いた時。世界は確かに私の為だけに。


・・・在ったのです。


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