恋は、秘密主義につき。
「加減してやれなくて、・・・悪かった」

ばつが悪そうな声がぼそっと頭の上で聴こえ。私は気怠さの中で佐瀬さんの腕を枕に、力が抜けきった躰を横たえていました。

カーテンの透き間から差し込むオレンジ色の陽射しは、もう黄昏時を告げる頃なのかも知れません。
時間の間隔なんてどこにもなくて。あっという間だったような気もしたし、深くて濃いところをずっと漂っていたようにも感じていました。

「カラダ、きつかったろ」

こういう行為は圭太さん以来だったのと、男の人によってこんなにも違うものなのかと、ちょっとしたカルチャーショックは。・・・無くもありませんでしたけど。

「・・・大丈夫です。もう平気になりました・・・」

言っていて自分で恥ずかしくなり、彼の肌に寄せた顔を埋めてしまう。
すると肩を抱いていた掌が離れて、私の髪を撫でた。

「シャワー浴びるか。そろそろ送ってかねーとな」

その言葉にすぐには頷けず、聴こえない振りをした。

「お嬢ちゃんの親が心配する。・・・ダダこねんな」

溜め息が漏れた気配に、呆れられたのかと思わず顔を上げると。
困ったような、けれど穏やかな眼差しで私を見ている佐瀬さんがいました。

「いつでも来れンだろが」

『次』を当たり前みたいに言ってくれたことが。どれだけ、どんなに嬉しかったか。

「はい・・・っっ」

嬉しさのあまり彼の首に手を巻き付け、ぎゅうっと自分から摺り寄せて。 

「・・・すきです、佐瀬さん。・・・好き」

忘れて欲しくなくて、掠れる声で何度も繰り返す。

そのたび。佐瀬さんは黙って髪を撫でてくれた。
優しくて安心できる温もりだったけれど。・・・心許ない何かが消せずに。

寂しい気持ちがしたのをそっと。胸の奥へと追いやったのでした。
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