恋は、秘密主義につき。
自分の駅に降り立ち、人波の合い間を縫うように自動改札を抜け。急ぎ足でロータリーに沿って歩道を左方向へ歩き出す。
タクシーや他の送迎車で混み合うのを避けて、佐瀬さんとの待ち合わせは少し離れた牛丼チェーン店の前あたり。

見慣れた白い車がハザードを点滅させて停まっているのを、ホッとしながら。

「すみません、遅くなってしまって・・・!」

助手席に収まりながら、呼吸を整えるように息を吐けば。
伸びてきた掌が、ぽんぽんと頭の上に乗せられる。
きっとこれが『おかえり』の代わりだと、都合よく解釈している私です。

「行くぞ」

「はい」

サイドミラーを見やり車を発進させた佐瀬さんは、いつもと変わらず気怠そうに。
黒シャツの袖をまくった手首には、今日は腕時計だけはまっていました。

家に着くまでの時間がもったいないので、遠慮なしに横顔に見とれていると、だいたい5分も経たない内に貴方は決まって溜め息を漏らす。

「・・・よく飽きないねぇ」

「全然、見飽きないですよ」

横目で一瞥されて、にっこりと笑い返すのもルーティン。

「そんなにオレが好きか」

いつもなら、億劫そうに頭を掻いて終わるだけなのに。
人が悪そうに口角が上がるのが見え。
ぼん。と何かが爆ぜて、顔から熱が噴き出すかと思いました。
狼狽えて口を開きかけたものの、恥ずかしさのあまり何も言えません。

今の今で自覚してしまいました!
どうやら私、佐瀬さんの少し意地悪そうな顔に弱いみたいです~っ。
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