恋は、秘密主義につき。
何となく。勝ち誇った風で佐瀬さんが愉し気なのは、気のせいでしょうか。
もしかして、分かっているのにわざと言わせようとして?
今日の佐瀬さんは『意地悪そう』じゃなくて、意地悪です・・・。

火照って仕方のない両頬を掌で押さえ、目も合わせられなくなって、羞恥に耐えながら弱弱しく反論を試みました。

「そういう言い方は、・・・ずるいと、思います・・・」

「・・・・・・・・・。そりゃ、こっちのセリフだろ・・・」

「・・・?」

疲れたような深い溜め息が聴こえ、言ったきり黙りこくってしまった運転席の方を恐る恐る仰ぐ。
ちょうど信号待ちに差し掛かり、おもむろにこっちに向いた眼差しが、なぜか恨めしそうに上から細められたのに思わず固まった。

な。・・・にか怒らせてしまったんでしょうか・・・・・・・・・?
記憶回路を巻き戻そうと焦る私に、抑揚のない声が注がれる。

「・・・悪いが今日はこのまま帰してやれそうにねーわ」

「えっ・・・?」

責任取って、付き合え。
そう呟きが漏れ。一瞬目の前が暗くなったかと思えば、唇に押し当てられた感覚。



信号が青に変わり無言で走り出した車が、やがて佐瀬さんのアパートに着いたと分かった時も。躊躇いもなく自分から降りた。

玄関の鍵が開き、背中でドアが閉まったか閉まらないうちに佐瀬さんの腕に掴まった時も。
本当はまたこうして欲しかったんだと、分かってしまっていました。

頭の後ろを押さえこまれ、いきなり深く繋がるキス。
そこからはもう。
抱き上げられて、奥のベッドまで運ばれたところまでしかよく憶えていない。


脳髄まで侵されていくような痺れと刺激に何度も溶かされながら。
我慢しきれない声を佐瀬さんが、指で、口で。塞ぐ。
入り込める場所に全部、舌が這わされて埋め尽くされて。

奥の奥まで佐瀬さんでいっぱいになった。

兄さまも征士君もセカイから消えて。



私は佐瀬さんのナカに、どんどん沈んでいきました・・・・・・。


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