恋は、秘密主義につき。
「佐瀬さんは・・・佐瀬さんです」

頭で考えるより先に、口から零れていました。

貴方が、私とは『違う』と。最初から見えない格子の向こう側に居たのだとしても。
私にとって貴方は貴方でしかないんです。

生きてきた時間も、世界も何もかも違って。でもそれが。私と佐瀬さんを隔てるとは思いません。
『いま』と『これから』があるなら。過去を枷にし続けなくてもいいって。

「・・・そう信じるのは私の責任ですから」

微笑んでみせたつもりでしたけど、どうだったかは分かりませんでした。
車を降り、ドアを閉めて会釈をすると、佐瀬さんを視界に入れないように踵を返した。

いつもだったら。私が玄関のドアを開けるまで停まっている車を、最後にもう一度振り返るのを。出来ずに逃げるように。
ガチャリと背中で扉が閉まる音を聴いた時。堪えきれずに涙が溢れ落ちた。

あの言葉に、自分じゃなく征士君との未来を選べという意味があったことが悲しかった。
・・・口惜しかったのかもしれません。

幸せってなんでしょう。
傷のない過去を持っていて、不自由のない人生を送っている人と結婚するのが幸せですか。

傷のある過去に、どんな罪がありますか。一生赦されないほどの罪なんでしょうか。
どうして、貴方は。それを背負い続けようとするんでしょうか・・・・・・。

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