恋は、秘密主義につき。
廊下の先にリビングの灯りが煌々と漏れていて。慌てて濡れた頬を手の甲で拭い、深呼吸をしてスリッパに履き替えると、「ただいま帰りました」とわざとらしくない笑顔を覗かせる。

「あら、今日は遅かったのね」

最近は押し花アートに凝っているママが、何やら広げていたリビングテーブルから顔をこっちに向けます。

「一実ちゃんとついお喋りが弾んでしまいました。パパもまだですか?」

「今日は研究室に泊まりですって。美玲は、明日は征士君とお出かけでしょう? お風呂もすぐに入れるから、夜更かししないで早くお休みなさいな」

「・・・はい、そうしますね」

愉しそうに私を急かすママに吐いた嘘。・・・いないパパにも吐いたのと同じこと。
本当のことが言えたら、きっと罰は受けます。
胸の中で『ごめんなさい』と深く頭を下げた。

私にとって、最後の恋なんです。
どうか。
この秘密を貫かせてください。

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