恋は、秘密主義につき。
私が生まれた時から、お祖父さまに兄代わりを頼まれたという愁兄さま。
どんなに歳を重ねても私たちの絆は変わらない。かけがえのない大切な存在。誰より愛する。

でも。
だからこそ。
佐瀬さんのことが言えません。
何でも許すことは愛情じゃないと、兄さまはずっと教えてくれていたから。

政界や財界に影響力を持つ楠田家の一員でもある私が。極道だったという過去を持つ彼に、本気で恋をしたと知れば。佐瀬さんをこの国の裏側に行かせてしまうくらいは、簡単でしょう。

今は少なくても身辺警護の名目でそばに居られる。そして。いつかその時は。自分が取るべき道を考えて選ぶつもりです。

一瞬、瞑目し。耳に当てたスマートフォンを握る指に少し力を籠めた。
上体を起こしてベッドの上に正座すると、ひとつ呼吸を正す。

「明日、征士君と会うので・・・それを伝えておこうと思ったんです」

『ああそう言えば、鳴宮君の誕生日が近いんだったね。きっと楽しみにしてるんじゃないかな、美玲に祝ってもらうのを』

「そう言ってました。・・・あまり特別なことは出来ませんけど」

小さく笑った自分の顔が、歪んでいるのが手に取るように。
電話じゃなかったら到底、やり取りを続けられる自信はありませんでした。
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