恋は、秘密主義につき。
『気持ちが伝われば、なんだって構わないものだよ。特別じゃなくても』

優しく微笑まれた気配に、「そうですね」とだけ返すのが精一杯。

「あの・・・兄さま」

『・・・なにか心配ごとでもあるの?』

さり気なく言ったつもりだったのに。兄さまの敏さには本当に敵わない。
肩で息を吐くと、お腹を括って思い切った。

「もし・・・やっぱり征士君と結婚できないって言ったら、お祖父さまや楠田グループに迷惑がかかりますか・・・?」

ひとつ間を置いてから、向こう側から穏やかな声が聴こえた。

『前にも言ったけど、美玲が望まない結婚を強いるつもりは無いんだ。鳴宮との縁故ひとつで揺らいだりはしないからね。断っても、かすり傷にもならないから安心しなさい』

それを聴いた時。不謹慎でしたけれど、大きく胸を撫で下ろしました。
逃げ場のない政略結婚だったなら、私に選択の余地は無かったでしょう。

『答えがもう出ているなら、そう言ってくれて構わないし、迷っているなら焦らなくていいよ美玲。時間はまだある、ゆっくり考えてごらん』 

「・・・ありがとうございます。ちゃんとしたら、兄さまにお話しますね」

『美玲には僕のようになって欲しくない。・・・幸せになれる相手と結婚して欲しいだけなんだ』

儚さを乗せた声で、兄さまは優しく言った。
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