恋は、秘密主義につき。
7年前、ある取引先銀行の頭取の娘さんと結婚をした兄さまは。その3年後に前触れもなく突然の離婚をしました。

“もともと政略結婚だったんだよ。けど優華(ゆうか)さん、無理やり別れさせられた男と続いてたみたいでさ。カケオチだって”

ふーちゃんからそう聴いた時。言葉もないほどショックを受けたのを今でも思い出せます。

4歳年下で、物静かでしたけど優しい笑顔の優華さんを兄さまはとても愛しんでいました。
何度も3人で食事をしましたし、お家に遊びに行ったこともあります。姉のように接してくれて、学生の私に女の子らしいイヤリングやストールをプレゼントしてくれたり。

兄さまは私の前では何も言わず寂しそうに微笑んでいただけでしたが、傷は決して浅くはなかったと、だいぶ経ってからたぁ君がふと漏らしたのを。胸が千切れる思いでした。
自分が壊れるまで消耗させるみたいに、仕事漬けの日々を送っていたことなんて知らずに。

いきなり珈琲店を継いだ理由も『ちょっとした気分転嫁』だと。でもそれから段々と、大好きなあの優しい微笑みが戻ってきて。私も掬われた気がしました。

“僕は優華を憎んではいないよ。ただ・・・人の心を無理に摘み取ってする結婚が間違っていただけだった。美玲にそんな思いはさせない・・・”

いつだったか、やんわり抱き締められてそんな風に。
兄さまの言葉が上辺だけじゃない、心からの願いだということは私が一番よく分かっています。
< 178 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop