恋は、秘密主義につき。
「女の子同士でも定番ですよ、ポップコーン。塩キャラメル味とか・・・」

ファッションや雑貨のショップが並ぶ施設内の通路を、行き交う人の流れに沿ってゆっくり歩きながら。けっこう好きです、と言いかけて。
視界の端を過ぎったすれ違いざまの黒っぽいシルエットに、思わず躰ごと振り向かせました。
今の・・・っ。

掻き分けるように黒いシャツ姿を目だけで追いかけたけれど、見渡せる限りの先にそれらしい後ろ姿はどこにもなく。
右に左に必死に視線を振ってみても、やっぱり見つけられません。

「レイちゃん、どうかしたの?」

心配げな声にはっとして征士君に向き直り、慌てて謝りました。
いきなり立ち止まってキョロキョロしだすなんて、あまりに不審すぎです、私。

「ごめんなさい、知っている人とすれ違った気がして。でも他人のそら似だったかもしれませんね・・・!」

「人の多い場所だとあるよな、そういうこと」

私の頭を軽く撫で、笑む征士君に笑顔を返し。何でもなかったように彼の隣りでまた歩き出す。


ほんの一瞬の残像でも。
体付き。歩き方。気配。

どんな人混みの中にいても。私が貴方を見間違えたりはしません。
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