恋は、秘密主義につき。
「愁一さんは? 娯楽の喫茶店は流行ってんの?」

ストレートな物の言い方はヨウ君の良い所でもあり、心配なところでもあり。先に運ばれてきた飲み物に口を付けながら、兄さまに向かって愛嬌のあるキツネ顔でニンマリとしている。

「ヨウ君、兄さまの珈琲店は娯楽じゃないです。立派なお仕事ですってば」

その前に、私が大真面目に訂正。ヨウ君が人が悪そうに、くっくっと喉を鳴らす。

「ハイハイ。そーゆーコトにしとく」

2年前。33歳で楠田レーベンインダストリーの社外取締役になり、今は亡き叔母様の、大切な思い出の珈琲店を受け継いだ愁兄さま。
苗字をそのままお店の名前にした『珈琲・保科』には一度だけお邪魔したことがある。
木の温もりとアンティークな雰囲気の、とても素敵なお店で。バーテンダーさんみたいな、ベストと蝶ネクタイの装いの兄さまを見た時は、あまりに似合いすぎていて眩暈がしましたっけ・・・。
 
思い出しながらも、うっとりしてしまう私。
社外取締役の意味はちょっとよく分からないけれど、お祖父さまもひいお祖父さまも、兄さまのことを一目置いているのは私にでも分かる。

「常連さんもいてくれてね。色々な話も聞けて、楽しくやっているよ」

長い指で私の髪をやんわりと撫でながら、兄さまはヨウ君にそう言って微笑んだ。
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