恋は、秘密主義につき。
少なくても。否定できなかった意味を彼は悟っているでしょう。でも沈黙は答えにはならない。せめて。征士君に不誠実でありたくない。

詰めていた吐息と一緒に緊張を吐き出して、私は躊躇いがちに口を開いた。

「・・・・・・自分でも分からなかったんです。いつから好きだったのかも・・・」

緩む気配のない腕の中で、偽りない気持ちをぎこちなく紡いでゆく。

「そう気付いてしまったから・・・、結婚をお断りするつもりで・・・今日は、征士君に会いました」

ところどころ声が上ずったのを、ようやく最後まで。

やがて。
沈み込むような深い吐息が漏れたのが、耳の上辺りで聴こえた。

「・・・・・・俺は、諦めたくないよ」

不意に力が抜け、そっと体を離した征士君は辛そうな眼差しで私を見つめていました。

「・・・その人の方が好きなんだとしても、俺を嫌いになったわけじゃないんだよな・・・?」

「そんな風に思ったことは、ないです。一度も・・・っ」

征士君は好い人で。
誠実で、とても笑顔が優しくて。
本当に私を心から想ってくれて。
結婚したら子供が大好きなパパになって。
ときどき喧嘩をしても、愛情たっぷりの仲良し家族になれそうで。
どうして好きになってあげられなかったんだろうって・・・!

ぐっと込み上げてきたものを堪えきれずに、両手で顔を覆った。
私が泣くのは卑怯なのに。堰を切ったように、後から後から溢れ落ちてくる涙。
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