恋は、秘密主義につき。
「泣かせるぐらいには、好きでいてくれたってことか・・・」

投げ掛けられているというよりは、自身に問うような。
苦そうに笑んだ気配がして、頭の上に征士君の大きな掌がやんわり乗せられました。

「ごめ、・・・なさ・・・っっ」

途端に殺しきれなくなった嗚咽。
声を詰まらせ、しゃくり上げるしかない私の髪を長い指が上から下へ。慰められる資格なんてどこにないのに。労わるみたいに優しくて、たまらなかった。

思わせぶりに人の気持ちを振り回すなと、責めて当たり前だったのに。
どんな非難も受け止めるつもりだったのに・・・っっ。
膨らむばかりの罪悪感に、今にも心臓が千切れそうでした。


「・・・・・・レイちゃんの気持ちは分かった」

何度となく彼の指が髪を滑り。落ち着いた声が注がれたのは、そうして少し経ってからでした。

私は、頬を濡らした涙を覆っていた手の甲で拭うと、おずおずと顔を上げた。
見つめられる眼差しには悲しみも入り雑じって見えたけれど。・・・とても静かだった。

「許婚のことは白紙に戻しても、かまわないよ。でも一つだけ・・・聞いて欲しいんだ」

髪を撫でていた指先が頬に下りて、涙の跡をそっとなぞる。
自分に出来ることなら拒むつもりなんて、どこにも。
征士君が、理不尽な交換条件を突き付けるとも思わなかった。

「女々しいって言われるかもしれないけど。レイちゃんと会えたのはたった3回目で、俺を知ってもらうのも、会えなかった10年分のレイちゃんを知るのも、まだこれからだって思ってた。これから時間をかけて、ゆっくり分かり合いたいって・・・思ってた」

寂しそうに淡い微笑みが浮かんで。

「レイちゃんを困らせたいわけじゃない。でも、何もしてないで戦力外通告されるのは、やっぱり納得できないし諦めがつかない・・・。だから俺に最後のチャンスをくれないか」

そう言った彼の眸は、澱みもなく私を捉えていました。
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