恋は、秘密主義につき。
『俺はやめとけ』と、告白すらさせてもらえなかったあの時。
佐瀬さんが黙って幕を引こうとしたことがすごく悲しかった。せめて自分の手で幕引きをして、心の奥底に仕舞い込むつもりでした。

征士君の気持ちは、嫌というほど分かります。
自分できちんと完結させないと心残りになって。その後も続いていくはずの“舞台”への一歩が、踏み出せなくなってしまう。

目を伏せ、きゅっと唇を引き結ぶ。
それでも『YES』の答えを躊躇いました。
答えは変わることがありません。二度も征士君を傷付けるなんて、私にはどうしても。

できない、と思い切って口を開きかけた。

「今度のレイちゃんの誕生日まででいいんだ。それまでに俺に振り向かせられなかったら、許嫁を解消して二度と会わない。・・・鳴宮の名にかけて誓うよ」

意思の強さを秘めた真っ直ぐな声が、私の言葉を飲み込ませ。
彼の望みどおりにしようと決心したのは。・・・償いという負い目だったのかもしれません。



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