恋は、秘密主義につき。
到着したのは、駅前が拓けた大きめの駅。私の乗り換えを気遣って、わざわざ足を延ばしてくれたんだと思いました。
帰宅客を狙って連なるタクシーを避けるように、ロータリーの端に停まった車。ハザードの点滅に合わせて、小さい打音が規則正しく一定のリズムを刻む。

シートベルトを外して降りる寸前。今の今まで迷っていたのを、清水の舞台から飛び降りる心境でバッグの中からそれを取り出し、躊躇いがちに彼に差し出しました。

「・・・・・・・・・不愉快にさせてしまったら、ごめんなさい。・・・これを選んだ時は本当に誕生日のプレゼントのつもりでいたんです・・・。今も、征士君には感謝しかありません。受け取って欲しいって思うのは、私のエゴだって分かっています。・・・ですから」

「ありがとう。レイちゃん」

最後まで言い切る前に、聞き慣れた優しい声が注いで。
俯かせていた視線を上げた。
そこにはあの、とても甘やかな微笑みがありました。

「どんな気持ちでも嬉しいよ。俺のために選んでくれたんだろ? それだけで十分だから」

長細いショップバッグを、やんわりと手に取ってくれた征士君。
思わず目が潤んでしまうと伸びてきた手が私の髪を撫で、運転席から体を乗り出すようにして額にキスが落ちました。


「・・・次に会う時、俺の全力でプロポーズするよ。レイちゃんもそのつもりでいて」

力強く、揺るぎない眼差しが私の心臓を射抜き。またね、と最後の笑顔には切なさが滲んで見えた。

降りてドアを閉め、下げてくれた助手席側のウィンドウ越しに、彼に向かってあらたまった一礼を返して。
顔を上げても佇んだままの私に軽くクラクションを鳴らし、ゆっくりと車が滑り出す。
ロータリーを回って遠ざかっていくのをもう一度、深く頭を垂れながら。きゅっと引き結んだ唇。

その時は私も。胸の内で小さく呟いた。

好きな人がいます。と。目を見て真っ直ぐに答えます、・・・征士君。
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