恋は、秘密主義につき。
バスタオルを腰に巻いただけの恰好で、濡れた髪を違うタオルで男らしく拭いている彼を見上げ、固まったままの私。

「なンだ? 風呂上りなんざ、今さらだろ」

「えっ、あ、はい・・・っ」

いったん我に返り、そこじゃないです、と心の中で弁解しつつ目を泳がせた。

「・・・・・・あの」

「あ?」

「今日、・・・・・・帰らないとダメ、・・・ですか?」

恐る恐る。思い切って上目遣いにもう一度、目を合わせる。
すると今度は佐瀬さんの視線が無表情に固まっていて。いたたまれずに俯き、何故か、ごめんなさいと口走っていました。

「そのっ、今日は、両親がたぁ君のおばさまの家に泊まるからって、ラインが来ていてっ。私もそうしていいって・・・!」

もちろん、ママは相手が佐瀬さんだと思ってもないことだと分かっています。娘への愛情と期待を裏切る行為だっていうことも・・・!
それでも。
二人で一緒にいられる時間を一秒だって無駄にはしたくない。そう思ったら。言わずにはいられなかった。
未来は不透明で。今この瞬間だけがすべてだから・・・っ。

「だから。朝まで一緒にいたいんです、佐瀬さんと・・・!」

どうか、帰れなんて言わないで。
初めて抱いてもらった時と同じくらい。心臓が変な音を立てて壊れそうに。
他にどう言ったら良かったのかも、これ以上どうしていいかも分からなくて泣きそうでした。
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