恋は、秘密主義につき。
乾ききっていないとクセが露わになって、うねりを帯びた髪。
顎以外の髭は綺麗に剃られていて、メントール系のシェービングクリームの香りがほんのりと。
少し垂れ気味だけれど切れ長の眸の奥に、なにかが微かに揺らめいて。見えた。

「言ったろ。・・・オレといるってのはこういうコトだ、ってな」

顔の両脇に手をつかれ、囲われた私。
スプリングが重そうに軋む音がやけに耳に響いて、残る。

「欲しいなら、差し出せ。望みどおりにくれてやる」

冷たくも温かくもない声が音もなく、胸の真ん中を突き抜けていきました。


私のすべてを差し出したなら。
貴方のすべてを?

心を差し出せば、心を?
愛を?
未来さえも?


ああ。これは私と佐瀬さんの誓約なんだと。思いました。
違(たが)えた時がふたりの終わりなんだと。
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