恋は、秘密主義につき。
「・・・どした」

少し怪訝そうに。向いた眼差しが細められる。
あらたまって見つめ返すと、ひとつ呼吸を置いて小さく口を開いた。

「帰ったら愁兄さまに婚約解消のことを話します。外泊したこともすぐに伝わると思うので・・・、相手が征士君じゃないことはどうしても言っておきたくて」

佐瀬さんは表情を変えることもなく、黙って聴いてくれました。

「初めは、一実ちゃんのところに泊めてもらったことにしようって考えてたんです。それなら佐瀬さんのことも隠しておけるし辻褄も合わせられる、そう思って。・・・でも」

黒いシャツの胸元に視線を落とし、途切れた言葉の先を探りながら手繰りよせる。

全部くれると貴方は言った。
それが愛ですか。
引き返せない渦の中に一緒に飛び込んでくれますか。
一緒に。私の道連れになってくれますか。

もう一度、真っ直ぐに佐瀬さんを見上げた。

「やっぱり兄さまには本当のことを言います。佐瀬さんを好きになったことも、朝まで一緒だったことも」
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