恋は、秘密主義につき。
「元気そうね」

歳は佐瀬さんより十は上に見えました。
艶やかな色の口紅を差し、綺麗なお化粧をしていますけど派手な印象はありません。
サッパリ目の美人という表現が一番ちかく、涼しげな微笑みを浮かべたその人は。袂を押さえておしぼりを二つ、腰掛けた私たちの前に置きながら、佐瀬さんに目を細めていました。

「・・・そちらのお嬢さんは、まさか娘ってことはなかったわよねぇ?」

「カンベンして下さいよ。・・・ツレです」

「あら。ずい分と趣味が変わったこと」

「・・・歳くって、丸くなったンですかね」

「悪くはないでしょう。堅気のお嬢さんを相手に出来るんだもの」

「姐さんに褒められると怖ぇなぁ・・・」

「名前でお呼び」

ピシャリと言い切られて、バツが悪そうに頭を掻く佐瀬さん。
目を丸くしながら、やり取りを聞いているだけの私に、女将さんがにっこり微笑みかけてくれました。

「初めまして、お嬢さん。佐瀬の元上司の妻、・・・ってことでいいかしら? 千里(ちさと)って呼んでくれると嬉しいわ」
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